13 三客の茶器
(いい感じじゃない)
エボニーが部屋に入ってすぐ、なぜかモーブ男爵はエボニーを連れて庭に出てきた。しかし二人の様子が確認できる分好都合であるため、オリーブは気にしなかった。
二人はしばらく庭の東屋で話をしていたが、エボニーがモーブ男爵に頭を下げて立ち去るのを確認したため、オリーブは東屋に近づきモーブ男爵に声を掛けた。
「失礼しますモーブ男爵。お気に召していただけましたか?」
「ええ。楽しくお話させていただきました。わざわざご紹介ありがとう。君に感謝するよ。──では私は午後の会議があるので、これで失礼する」
「はい」
モーブ男爵はオリーブになど興味はないと言った感じで席を立つと、さっさと邸内に消えていった。
どうやらエボニーのことをかなり気に入ったようだ。
この様子ならば彼とオリーブの縁談など、すぐになかったことになるだろう。
伯爵令嬢である自分より、平民を選ぶ──。愚かとしか思えないが、モーブ男爵はオリーブより若く美しいエボニーの方がよかったのだろう。エボニーも相手が想像より若い男であったため、安心したはずだ。
オリーブの計画は、上手くいったのだ。
午後の会議も恙なく終わり、報告会は解散となった。
しかし複数の貴族家当主が集まることなど滅多にないため、個別に打ち合わせが必要な貴族家たちはまだ残っており、各会議室に籠っていた。
「えっと、こっちがA会議室で、こっちがB会議室ね」
「これはD会議室だ。あの強面子爵を筆頭に武家当主の面々が集まっているんだけど人数がはっきりしない。多めに茶器を持って行ってくれ」
それぞれの話し合いの席にお茶を出すため、複数のサービスカートに茶器の準備がされている。しかしオリーブは心ここにあらずだった。
どうやらしばらく顔を見せなかった間ヴェルトは森の調査に赴いていたらしく、先程の会議には森の現状について報告する為クルール男爵と並んで出席していたのだ。
(きっとヴェルト様もどこかに残っているはず。早速エボニーとモーブ男爵の件をお知らせしないと──)
しかしどうやって報告するのが良いのか。表向きヴェルトとエボニーの縁談については知らないことになっているのだ──。
オリーブがそんなことを考えていると、アッシュに声を掛けられた。
「あ、オリーブ!第二応接室でマルーン伯爵が君を呼んでいるよ。ついでにお茶を持って行ってくれ。一つはオリーブの分だからゆっくりしておいで」
ヴェルトが邸にいる間に何とかして会ってエボニーとモーブ男爵が相思相愛であると伝えなければならないため、親にお茶を出している時間などないのだ。
ヴェルトはあれからもエボニーの朝の訓練の時のみ辺境伯邸に来ているようだが、訓練場に直接顔を出して直接帰っているためオリーブとの接点はない。職務に忠実なのは美徳だが、オリーブとしては寂しい。
折角ヴェルトと会えるチャンスだというのに・・・オリーブは父を腹立たしく思った。
(もう!お父様ったら一体何の用なの!?)
内心苛立ちながら押しているカートに視線を落とす。茶器は三客。マルーン伯爵と、オリーブ、もう一つは・・・?
オリーブが少し乱暴にノックし応接室の扉を開けると、そこには不機嫌そうなマルーン伯爵と機嫌の良さそうなモーブ男爵が座っていた。
あぁ、モーブ男爵と父が話していたのか。そして今、縁談を断られてしまったところなのね。
「お待たせしました」
オリーブはお茶を淹れ終えると、何食わぬ顔で父の横に腰掛けた。
すると、しばらく無言だったマルーン伯爵が静かに口を開いた。
「オリーブ、お前は何をしたか分かっているのか──」と。




