12 オリーブの企み
定例報告会当日、続々と人が集まってきた。
報告会には主だった貴族家の当主、そして議題に関連する情報を持つ者たちが招集される。
「国境の森に、最近稀にみる獰猛な個体が増えているようだが・・・」
「はい。しかも日頃は単独か番で行動している獣が、群れて行動しているのを見かけます。幸い死者は出ていませんが、警備の騎士に怪我人が──」
国境の森とは隣国との境にある森で、その名の通り国境に沿って広がっている。
その森で起きている異変だ。人里からは離れているが、その一部が辺境伯邸の庭の林に続いていることや既に怪我人が出ていることもあり、早期の対策が望まれる。
(まぁ、恐ろしいことだわ。でも、何かあってもヴェルト様が守ってくださるから大丈夫ね)
集まった人数が多いため、侍女数人でお茶を出す。
オリーブは会議内容を右から左に聞き流しながら、モーブ男爵を探した。
(この中にあたしの未来の夫がいるのかな?)
エボニーは領内から集まった男爵家当主にお茶を出しながら、マジマジとその顔を眺めていく。年齢層はまばらであったが、現役ということもあってか皆若々しく、 “おじいちゃん”と言った感じの者はいなかった。
エボニーはそっと胸を撫でおろした。
お茶を出し終えたらすぐに昼食の準備に取り掛かる。食事と休憩をはさみ、議題を変えて午後からも報告会は続くらしい。
午前中の会議では近々『間引き』と呼ばれる、森に入り野獣の絶対数を減らすという作業を行うことに決まったようだと、エボニーは料理人のアッシュから聞いた。何故厨房から出ていないはずの彼が、会議室でお茶を出していたエボニーより会議内容に詳しいのかは謎だ。
モーブ男爵は釣書に添えてあった姿絵で大体の風貌を把握していたため、すぐに分かった。
文家とはいえ辺境の貴族家当主にしては、少しふくよかな糸目の男だ。人相の悪い武家の子爵家当主と話しているのを見かけたが、常に笑みを浮かべた穏やかそうな男だった。
(・・・簡単に言いくるめられそうだわ。モーブ男爵は私より若い娘が嫁に来るなら喜ぶに違いないし、あの娘には縁談相手の男爵だと誤解するように言えばいい・・・)
悔しいがエボニーがオリーブより若いことはどうしようもない事実だ。しかしそのおかげで簡単に片付きそうだとオリーブは思った。
オリーブは父にこの休憩中にモーブ男爵に挨拶をするように言われていた。
その時に二人を合わせモーブ男爵がエボニーを気に入れば、エボニーの排除を望んでいるレィディアンスとヴェルトもこのことを受け入れてくれるに違いない。
そして、レィディアンスにヴェルトとオリーブの婚約を認めてもらうのだ。
約束の時間、約束の場所に出向いたオリーブは、モーブ男爵に挨拶をするとすぐに本題を切り出した。
「男爵に紹介したい子がいますの」と。
「エボニー、貴女に会いたいという男爵家当主の方が待たれているわ」
何も知らないふりをしてこういえば、エボニーは勝手に勘違いするに違いない。
オリーブの思惑通り、そう言われたエボニーは、貴族家当主が平民である自分に用があると言っている以上、当然その人が縁談の相手なのだろうと思った。
(よしっ!!おじいちゃんでも顔に出さないっ!)
エボニーは気持ちを引き締めてオリーブの後について行くと、深呼吸をして部屋の扉を開けた。




