42 ダンジョン、ベビーゴブリン
ハンスは右手にショートソードを持ち、体内の魔力を集める。
「サンダーライン!」
サンダーライン、そう唱えられた魔法はショートソードの先から相手に向け猛威をふるう。
「ギギギギギィ!」
その魔法によって魔物は倒され、ドロップアイテムとなって地面に落ちる。
この部屋の魔物が全て居なくなったときに、部屋の中央から木で出来た宝箱が出てくる。
宝箱には罠が仕掛けられていたようで、ハンスは慣れない手付きで罠の解除を試みる。
ハンスはこの宝箱で2回目の罠解除である。
1回目に比べて2回目となると気持ちも楽になるが、解除自体のスピードは?と聞かれたら若干速くなった程度であった。
罠の解除をするのにそれこそ初めは20分以上は掛かっていたが、今回はその何分か速くなった程度。
最後の方は態と罠を発動させた方が早いんじゃ・・・と、思ったが、それでは罠解除の練習にならないと頑張って解除をしていく。
そして罠解除で悪戦苦闘し「カチリ」と音が宝箱から聞こえてきた。
「よし、やっと罠が外れた」
宝箱を空け中に入っていたのは、解毒ポーションと傷を癒せるポーションが1本づつだった。
1番目の宝箱からは魔物の素材だけだったから、少しは良い品なのだが、ハンスはどちらも魔法で解決出来る以上、そこまで欲しいものではなかった。
「回復魔法が使えない仲間にでもあげてみるか」
ハンスはそう言って魔物のドロップアイテムを拾って、部屋の奥へと進んで行く。
部屋の奥は小部屋で何もない。ではなくて、下に降りるための階段があるだけで、その小部屋には何もない。
階段を降りていった場所は、ハンスが今まで通ってきた通路と同じ造りで、その通路は一本道。
今ハンスがいる場所は、バルベルアさんとベルナートさんが、拠点に転送したダンジョンの地下2階に当たる場所だ。
1階に出てきた魔物は、ベビーアントやベビーラットで、先ほどの部屋には、マザーアントとビックアントが居た。
そして、2階には何が出てくるかはまだ分からない。
ハンスが手に負えない魔物は出てこないと思うが、通路を慎重に進んでいく。
「そう言えば、ゴータもこう慎重に進んだんだろうか・・・いや、それはないな」
ゴータ。それは10年前バルベルアさんに預けた始めての【従える者】により仲間になったゴブリンで、その10年間は修行をし、更にはこのダンジョンに潜り鍛え上げると共に、ゴータが今着けている装備をここの宝箱で手に入れたと聞いている。
そのゴータの性格は、食いしん坊でお調子者だ。
そんなゴータを日頃見ていた・・・正確には、分身達の記憶と経験を吸収したハンスが知っていると言ったが良いかもしれないが。見ていた状況では、慎重に進む処か、適当に進んでいるゴータの想像しか浮かばない。
そうこう思っていると魔物の反応を捉えた。
その反応から、ハンスが今まで出会っていない魔物みたいだった。
次第に距離も近付き魔物の情報が神格から伝わってきた。
種族 ベビーゴブリン
固有スキル 無し
「ベビーゴブリン?ゴブリンの子供か?」
ゴブリンの身長は150㎝前後が平均だが、目の前のベビーゴブリンは更に低い1mあるかないか位の身長だった。
装備と言えば腰に着けている布切れのみで、その他には何も装備はしていない。
魔物であるが脅威すら感じず、これなら子供でも倒せるんじゃ?と思ってしまった。
「ギャギャギャギャッ!」
ベビーゴブリンはハンスに気付き、ゴブリンよりも甲高い声で叫ぶ。
本来ならベビーゴブリンに気付かれない位置で、魔法を使って倒せたのだろう。
今回それをしなかったのは、ただ単にベビーゴブリンの強さを知りたかっただけであった。
「ガゥ!」
ベビーゴブリンが叫び終わると自分に気合いを入れたのか分からないが、短く声を発しハンスに向かって走ってくる。
そのスピードもゴブリンよりも遅く、走り方も辿々しい。
漸くハンスに近付けたベビーゴブリンは、身体に似合わない鋭い爪がある両手を、おもいっきり降り下ろしてくる。
「遅い!」
ハンスはその両手をショートソードで受ける。
受けてみて分かったが、やはりベビーゴブリンは腕力も余り無いのか、危なげ無く受け止めた。
力が弱くてもベビーゴブリンは魔物だと思ったのが、流石に一般人の子供よりは力は強く感じられた。
「ギィァ!」
一方のベビーゴブリンは、ハンスがショートソードで攻撃を受けるものだから、ベビーゴブリンの両手は少し剣で切れていた。
流石に痛いのか、一歩、また一歩下がり痛がる様子で、両手の傷を舐めている。
「いやっ、戦闘中なんだが・・・」
ベビーゴブリンの様子を見ていたハンスは、敵でもあるハンスの前に居るにも関わらず、ベビーゴブリンは自分の両手の傷を舐めて痛がる姿を見て呆れていた。
敵を前にしてそんな行動をすれば、間違いなくその隙に攻撃され死んでしまう。
それでも、ハンスがベビーゴブリンに攻撃しなかったのは偶々でしかなかった。
両手を切られたベビーゴブリンは中々血が止まらず、焦っていたが再度「ギャギャギャギャッ!」と叫びながら逃げていった。
「・・・逃げた」
ベビーゴブリンの様子を見ていたハンスは、逃げて行ったベビーゴブリンから視界を外さず、更に呆れていた。
「まさか逃げるとわ思わなかったな」
逃げていったベビーゴブリンが、もし再度襲ってきても何ら問題も無いと感じたハンスは、追うこともせず慎重にダンジョンを進んでいく。
途中で別れ道があって、この階層も全てマッピングをするつもりで、右に曲がっては行き止りで戻り、左に行っては行き止りで戻り、ダンジョンを攻略していく。
その途中で宝箱もいくつか見つかり、その度に罠を解除しアイテムや素材を手に入れてきた。
手に入れてきた物はポーションやお金等であったが、ここで始めて武器を手に入れられた。
短剣 ランク:1 攻撃:6
鉄で出来たただの短剣。
そう、ただの短剣だ。
だが、今のハンスは使い道が余りない素材や、ポーションよりは手に入れて嬉しかった。
自分で使っても、他の仲間に渡しても良い。
もし、自分で使うなら、剥ぎ取り用にでも投合用でも使い道はあるのだから。
短剣を手に入れられて、少し浮かれ気味になりハンスはそのままダンジョンを進んでいく。
そう、少しの違和感を感じながら。
あれからもかなりダンジョンを進み、1階に比べてもこの2階は宝箱の量が多く思えた。
何故かって?今罠解除をしている宝箱で7個目だからである。
ここまで来たら罠解除も慣れ始め、最初に比べるとかなり早く解除することができ始めた。
まぁ、ここまで罠はパンチングトラップだけしか無かったからってのもある。
あれから武器を手に入れる様なことはなく、ここまで手に入ってきたのはポーションやお金だった。
1階では、その階の魔物の素材が入っていたのだが、2階ではそれが全く入ってなかった。
そして、今空ける宝箱の中身は
「また、ポーションか・・・」
だった。
ここまでで進んで初めは小さな違和感だったが、今ではその違和感に気付き疑問に変わっていった。
「ここはダンジョンだよな?」
ハンスはそう呟く。
1階はダンジョンらしさがあって、今は全く無い。
ハンスが感じ取った違和感と疑問は。
「あのベビーゴブリン1匹しか現れてないんだけれど・・・それで良いのか?」
その答えは魔物の少さだった。
少ないと言っても、初めに出てきたベビーゴブリン1匹しか2階層では見ていない。
ダンジョンで1匹しか魔物が居ないって有り得るのだろうか?そんな疑問を持ちながら、ダンジョンを攻略していく。
ダンジョンを進んでいくと通路は行き止りだった。
だが、ただの行き止りではなく正面には木で出来た扉が存在している。
「2階のボス部屋か?」
1階にもあった扉はマザーアント達がいたボス部屋になっていた。
もしかしたらこの先もそうなっているだろうと思い扉を開ける。
「ギィィァア!」「グッゲー!」「ギィグァ!」
そして閉める。
「何だ!あれ・・・いったいどんな状況なんだ?」
扉を開けたハンスは中に居た魔物の状況が分からず、直ぐに扉を閉めてしまった。
「・・・・・・。」
そう信じ再度扉を開ける。
「何なんだ・・・この状況・・・。」
どう見ても、何度見てもハンスの見間違いではなかった。
ハンスが見た部屋の様子は部屋いっぱいのベビーゴブリン達。
中の部屋の広さはそこまで広くはないが、その部屋にここまで入るのか?と思わせる数だった。
そのベビーゴブリン達は、ハンスがドアを開け目があった瞬間、叫び怯えていた。その怯えはベビーゴブリンが押し詰まった部屋に少しの空間が出来るほど・・・。
「ほんと、どういう状況だよ・・・。」
その間もベビーゴブリンは叫びながらハンスから少しでも遠ざかろうと必死の様子だ。
本来ならダンジョンなのだから魔物は倒して進むか、回避して進むかしないといけないが、この様子を見たらこのベビーゴブリンを倒しにくい。
「襲わないなら先の通路に行かせてくれよ・・・。」
そう呟くハンスだが、この部屋の状況ではそれさえも難しい。
奥の扉までの直線の道を開けようとも、ベビーゴブリンの数が多すぎて無理・・・。
「はぁ・・・どうするんだよ、これ・・・」
この部屋にいるどのベビーゴブリンもハンスに襲いかかる事はせず、ただ叫び怯えるだけ。
「倒すしかないのか?・・・仕方ない・・・」
「「「「「ギィグァーーーーーーーッ!」」」」」
ハンスの言葉でベビーゴブリン達は更に絶叫する。
「だーーっ!どうしろってんだよ!」
もう既に涙目のベビーゴブリン達・・・倒しにくい、非常に倒しにくい・・・
「攻めて魔物なら襲ってこいよな!」
ハンスの心からの叫びは部屋の中に響いた。
ベビーゴブリンはもう叫ぶ気力もないのか、お互いに顔を見合せ沈黙し、先程まで騒がしかった部屋には静寂さだけがおとずれた。




