24 レイン
ハンス達がコープルを走り回っている時間から一日遡った朝
カーン!カーン!カーン!
何やらハンマーで金属を叩く音が聞こえる。
その部屋の温度は真夏日より暑く、2月の終りの肌寒い感じではない。
そんな中で父親を呼ぶ元気な女の子の声が聞こえる。
「お父さーん」
「ん?何だ、ちょっと待ってろ、今手が離せないんだ!」
「分かってるけど、本当に良いの?私お出掛けしても?」
「ああ、行ってこい!お前は小さいながら働かせ過ぎた。たまには良いさ!楽しんでこいよな!」
「お父さん、ありがと!夕御飯の時間には帰るから。昼御飯は鍋に作っているから温めて食べてね!
それじゃ、行って来まーす!」
「おう!ありがとなレイン、気を付けて行ってこい」
カーン!カーン!カーン!カーン!カーン!
レインが出ていった後も、力強い鉄を叩く音が部屋に響いていた。
そう、この会話は鉄心の店主トーマスと、その娘レインの行方不明になる前の会話だ。
この時二人はこの後に起こる出来事なんか全く予想してなかった。
レインが鉄心を出ると、とある少女と目があった。
その少女もレインと同じ位の年齢だろう。
その姿は人ではなく獣人と呼ばれる者で明らかに人と違う所もあった。
その容姿は頭に白い耳が着いている犬の獣人だ。
この世界には幾多の種族が共存しているが、別の大陸には人間差別の国や、その他の種族を差別する国等が存在している。
だが、レイン達が住んでいる大陸、すなわちイースラ大陸はそんな差別をしている所は数少ない。
「お待たせミリル、待ったよね?」
「ううん、あんまり待ってないから大丈夫。さっ、それよりも行こ行こ」
面白半分でレインを置いて行こうとしているミリル、それも分かって楽しい気分で追いかけるレインだった。
「あーっ、待ってよ」
そんな二人が話している時間は朝のだいたい9時位だ。
この二人が今から何をしに行くのかと言ったら、お買い物に美味しい料理を出しているお店に遊びに行くことだった。
レインの家兼鍛治屋の鉄心は商業地区が並ぶメインストリートに位置している。
洋服や雑貨等扱っている店も近くにあるが二人は近場より、敢えて距離が離れている店に行く。
その方が新しい発見や、新しいアイテムを見付けられて楽しいからだ。
「そう言えば、レインって最近そのネックレス良くはめているよね?何、誰かからのプレゼント!」
「えへへっ、このネックレスはハンスから貰ったんだよ」
「ハンスから!いいなぁ、ハンスって言ったら領主様から目をつけられているほど凄い子じゃない。しかも、将来は騎士や宮廷魔術師に勧誘は約束されて、父親は冒険者Bランクのオールド、母親は冒険者Cランクのローズのエリート一家・・・はぁ、羨ましいわ・・・レイン、今日の昼はレインもちね」
ミリルが知っての通りハンス達の一家はコープルの街ではそれなりに有名で、冒険者を目指す者にとったらハンスは憧れだったり嫉妬の対象だ。ただ、嫉妬とと言ってもいい意味のもあるが勿論悪い意味のもある。
新規でコープルにやって来た者達からしたら分からないことだが、昔から住んでる者にとったらその差は歴然だ。
ただ、その感情は冒険者を目指す者や騎士を目指す者等だけで、大人達はほぼそうではないが・・・。
そんななか、顔を赤くしてレインは照れながらだが返事をする。
「ちょっ、ミリルそれは別じゃない!」
「少しはこっちに幸せ回しなさいよね」
「ふ、ふぁい・・・」
それからミリルに弄られながら二人は最初の目的の雑貨屋へとたどり着いていた。
二人が入った雑貨屋は主に小物や人形を取り扱う店で、家で使う小物から商売で使う小物までさまざまに扱う店だ。
二人は店内を物色し、レインはある商品の前で立ち止まる。
「可愛いぃ!ミリル見て、見て!これ良くない?」
「レイン、これ何か分かる?」
「何言ってるの、これは金運を呼ぶトレント人形じゃない」
まさしくレインが選んだのは木で出来た人形、しかも魔物のトレントを表した人形だ。
実際そのトレントは稀少種の分類でその素材は普通のトレントと違い高価で取り扱われている。
なら、他の稀少種の魔物も金運を呼ぶと思われるがそうではない。
その稀少種トレントの別名はゴールドトレント全体がゴールドの色をしているのではなくて、その体・・・葉の一枚ではあるが黄金に輝く葉が付いている。
その葉の素材はなかなか手に入らないし、その素材をポーションに入れれば魔力の回復するものが作られるし、薬としても重宝されている。
しかも、その魔力を回復される作用は他の魔力回復ポーションよりも上である。
と、確かに金運を呼ぶトレントは有名だが非常に似た造りのため気持ちが悪い・・・。
「それは分かるんだけど、それ何処に置くのよ・・・」
「えっ、店のカウンターに丁度良いじゃない」
「レイン・・・やっぱり変わってるわ・・・」
結局その雑貨屋ではお互いに冷やかし同然で店を出ていった。
その後も何件か雑貨屋巡りは続き、お昼時となり二人は飲食店を目指すのだった。
そこで数ある飲食店の中からミリルお勧めの店へとたどり着き、中に入り何を注文するか悩んでいたが、ミリルからおすすめのスープを教えてもらう。
「来て来て、ここの煮込みスープ本当に美味しいんだから!」
「本当!私、外食って言ったらお父さんと酒場位なもんだわ・・・」
どの食べ物も美味しく二人のテンションは確実に上がっていた。
飲食店から出た二人は今日一番の目的の洋服店へと向かっていた。
「すみません、そこのお嬢さん方」
世間話に花を咲かせていた二人に突然横から声をかけられる。
声をかけた人は身だしなみも良く貴族、までとはいかないが清潔感が溢れる男性で、隣には女性の姿もあったが一般で着るような洋服ではなく教会で働く女性の姿の女性だった。
「えっ?」
「自分は隣の村から来たばかりで道がわからなくて・・・宜しければ道を教えてもらえないだろうか?」
「道ですか?因に場所はどちらまでですか?」
「東区の教会なのですが・・・あぁ、こちらは今日から隣の村から新しくその教会でお世話になる、モヴァリスで私はその付き添いのラングシャといます。無事コープルまでたどり着いたはいいんですが、お恥ずかしながらコープルに来たのは初めてでして・・・」
「本当にすみません、本当ならその教会には午前中迄には着いていないといけないんですが・・・あぁ、私どうしたら・・・」
「うっ」
レイン達はラングシャとモヴァリスの言葉を聞いて言葉がつまる、その原因は東区の教会への道案内だ、ただの道案内なら人助けと思い、もっと気軽に道を案内出来たのだろうが東区、そこにあるのは比較的に治安がいいコープルにもある無秩序地帯のスラムが広がる地域だ。
大都市メルガイにあるスラムよりはその規模は小さいが自分の身は自分では守れないような者はまず立ち寄れない。いや、立ち寄っては駄目な場所だ。
目的の教会はそのスラムに近い場所にあり、その教会もあまりいい噂は聞かない。
「どうしょ・・・ミリル・・・」
「レイン・・・案内しよっか?奥まで行かなければいいんだし」
「本当ですか!お嬢さん方本当にありがとう!良かったですねモヴァリス!」
「本当に、本当にありがとうございます!」
「あ、はぃ・・・」
道案内を断れない二人は内心びくびくしながらも案内を終わらせることが出来た。
逆に何事もなく無事に案内できた事に安堵する。
「本当にありがとうございました。本来なら御礼をしなきゃいけないのに、何も出来なくて・・・」
「いいんです、気にしないで下さい」
その足でレイン達は商業地区へ足早と戻る二人。
だが、道案内で何事もなく終わらせれた二人はまだ東区にいるっていう恐怖を紛らわはせるために、何て事もない雑談を話していた。
「よぉ、そこの嬢さん」
気分も大分落ち着き始めた時に再度声をかけられる。
その声に二人が振り向くが
「ま、また?」
振り向き様にミリルとレインは変な布を口に当てられそのまま意識が薄れていく。
「うっ・・・」
※※※
レインは意識がだんだんともどる。
だが、目を開けるも目の前は暗闇が支配している世界だ。
どうやら目が見えないように目隠しをされているようで何も見えない。
手も足も縛られているみたいで自由には動かすことが出来ない状態だった。
こ、ここは・・・?
く、口が!手も・・・。
「ん!んんーんんっ!」
ミリル?ミリル!は何処!
目隠しされ回りの状況がわからないまま中年だろうか男の声がする。
「おっ、そっちの女も起きたか。静かにしやがれ、今頭は大事な商談中なんだからよ」
商談?
「ここにいるガキどもは幾らの金に化けるか今から楽しみだぜ。うへへっ」
えっ・・・ど、どういう事?お金に化ける?あ、あぁ、嫌だ!私達売られる?奴隷?嫌だ!嫌だ!ミ、ミリルは無事なの?助けてお父さん!お父さん!助けて・・・ハンス!
「おらぁ、暴れるんじゃね!」
「んっ・・・」
レインが暴れたためか顔に何かが当てられ再度意識が遠退いていく。




