19 コープルへ
朝日で自然に目を開ける。
「朝か・・・」
昨日は早く寝たお陰か体の調子が良く思える。
朝と言ってもまだ皆は起きていないようで、拠点はやけに静まり返っている。
服を整え。
顔を洗い一階に降り。
皆の朝御飯を作ろうと料理場へ向かう。
だが、俺が料理場に向かう途中に何故か料理場から声が聞こえてくる。
「皆さん、料理を作る前にはキチンと手を洗い作業に入るように!」
「「「ガウ!」」」
「いい返事です。が、余りうるさくすると皆が起きてしまいますので静かにお願いしますよ?」
そうだった、今日はソウシュ達が料理当番になったんだな、起きてないんじゃなく静かにしてくれていたんだ。
「昨日教えた包丁は危ないので、振り回したり持ったまま歩かないようにしてください。」
調理場からは慣れてない包丁の音が聞こえる。
そんな皆に朝の挨拶をする俺。
「皆おはよう!」
「ハンス様おはようございます。」
「ハンスサマ!オハヨウゴザイマス!」
「「「ガウガウガ!」」」
皆笑顔で挨拶を交わし、今日も清々しい朝を迎える・・・。
って!ちょっと待て!何だあれは・・・。
不意に俺は調理場の端に目がいき、不思議な物体を見付けてしまう。
その物体は大きな袋に入っていて、頑丈にロープで巻かれていた。
そして、時々モゾモゾと動き変な声が聞こえた。
「もが、もが・・・」
「・・・・・・」
「ソウシュ君・・・この不思議な物体は?」
「ああっ、泥棒です。皆の食料を盗み食いしている所を捕まえました」
「そ、そうか」
深くは追及しないでおくか・・・朝から頭が痛くなりそうだ。
それにしても泥棒か・・・この拠点にある豪邸はメルガイとは別の空間にあるはずなのにな・・・あっ、考えない、考えない。
「ソウシュ手伝いはいるか?」
「ハンス様大丈夫です。出来るまでゆっくりしていて下さい」
「そうか、ありがと言葉に甘えるよ」
そう言って調理場を後にし豪邸の庭へと移動する。
庭にはハクとコクセキがゴゴ達に朝の稽古をしているみたいだ。
「おはよう皆!」
「「おはようございます」」
「「ゴゴブブ!」」
元気に挨拶を返すハクとコクセキ、それにゴゴとゴウタ・・・一人居ないみたいだがここは気にしないでおこう。
「ハンス様庭にはどうされたんですか?」
「ああっ、朝飯が出来るまで新しく仲間になった者の家でも造ろうとな」
「そうでしたか、了解致しました。所でゴータが見えないんですが知りませんか?」
「あ、ゴータか・・・気にするなハク・・・頭が痛くなるだけだ」
「そうですか・・・後でお仕置きですね」
「はははっ・・・」
ハク達と別れ、次は豪邸の裏の空き地へやって来たのだが、ここへは皆が住む為の今回は地下洞窟を創ろうと思っている。
だが、ただ創っただけでは雨が降っただけで浸水する恐れもあるし悩むところだ。
「どうするかな・・・」
暫し腕を組み考えるがいいアイディアも浮かばず、ただ時間だけが過ぎていく。
「ハンス様朝食の準備が整いました」
呼びに来てくれたセキメにここの洞窟をどうしたら良いか聞いてみたら。
「雨が降ったら確かに危険ですよね・・・」
やはり良いアイディアが浮かばず二人は豪邸へ戻って行く。
食卓には既に皆集まっていてれを待ててくれたみたいだ。
「すまない、待たせたみたいだ」
今まで七人で使っていた部屋には数多くの者が集い、皆同じ食べ物を食べる。
その雰囲気は今までよりも賑やかになる、未だ食器を使い慣れてない者は聖魔人が教えている。
新しく覚えることが嬉しいみたいで、真剣に習っては少しでも上手く出来た時には凄く嬉しそうに笑う。
こんな生活がずっと続いたら本当に幸せだと思う。
剣魔学校を卒業しコープルに戻った時に、って!やべっ・・・この状況って、父さんや母さんそれにミトお婆ちゃん・・・怒らないよね?
ああああっ!まずった!先にこの事を伝えるべきだった!
今日は予定を変更して実家に戻るか・・・。
帰りづらいよな・・・。
一人であたま抱えていたら、ハクが心配して声を掛けてきてくれ、何を悩んでいるのかを話す。
「それは一大事です!父様と母様に挨拶せねば!」
「ちょっと待て!ハク目的が変わったみたいだが?」
「心配無用です!ハンス様このハクにお任せあれ!」
「嫌、何故か不安しかないんだが?」
「ハクお前は探索チームだろ?探索はどうs」
「コクセキは静かに!」
余りの迫力で流石のコクセキも黙るしかなかった。
「・・・」
「もしかしてハクも来る気か?」
「勿論です!」
「さ!直ぐに出発しますよ!」
「まだ、朝飯が・・・」
「こういったものは早い方が良いんです、行きますよ!」
「ほら、まだ洞窟の件も・ ・・」
「大丈夫です!1日2日の野宿なんて探索には付き物です!これも修行です!!」
「「「ガウ?ガウガウア!」」」
「あ″っ!」
「「「・・・・・・」」」
何かハク・・・凄い迫力があるんだが・・・。
※※※
見慣れた風景、懐かしい臭い、思い出が詰まった街並み。
その全てが懐かしく感じてしまう。
俺はハクに急かされていたが何とか朝食を食べさせてもらって今ここに来ていた。
【コープル】俺が育った街だ。
そして俺は街の正門で簡単な検査を行いコープルに帰って来れた。
此処から出て行った時は市民証を提出したが、今回は冒険者ギルドで発行されたギルドカードで中に入る。
そうした方がこの門で徴収される税金・・・つまり街に入るために支払うお金がかからないからだ。
街によって税金の金額は違うものの、コープルは銅貨三枚でメルガイは銅貨五枚であった。
そういった税金は主にその街の領主が決め。
集まった税金は街の維持や発展など街の為に基本は(・・・)使われる。
それにしても今日は雲ひとつ無い気持ちの良い青空が広がっていて、まだ朝ということもあってまだ肌寒い感じがする。
「ん!ハンス!ハンスじゃないか?お前1ヶ月位前に剣魔学校の入学試験を受けるためメルガイに行ったんじゃなかったのか?
まさか・・・メルガイにたどり着く前に諦めたんじゃないだろうな?」
まぁ、育った街だけあって中に入れば知り合いとも会う事もある。
今、話しかけてくれたのはコープルの正門の警備隊隊長の【ガジ】だ。
そしてガジにそう言われても可笑しくない。
ここコープルからメルガイまでは定期馬車に乗っても普通は24日はかかるとされていて、ハンスが旅立ったのは本当に約1ヶ月位前だったのだ。
他人から見たら途中で引き返したとしか思えない状況だった。
「ガジさんおはようございます。メルガイには無事たどり着けて、入学試験も無事終わりましたよ」
「なっ!?其にしては戻ってくるまでにあんまり日にちが経って無いようだが?」
「ん~っ・・・それは、秘密で!」
実は、コープルの中だけではあるが、ハンスにはこう呼ばれている、【神童】ハンスと。
【神童】と呼ばれる由縁はここコープルで、人から見たらあり得ない行動と実績の集大成だった。
【神童】と周りから言われる前には散々違うあだ名も付けられた。
冒険者なら二つ名として名前を付けられる場合があるが、まだ子供故に呼び名までで留まっている。
「秘密か・・・お前は何をしても常識を大きく外れちまうからな・・・」
ハンスも悪気があってやっていたものはない。
ただやり過ぎていただけだ。
自覚はしていたのかハンスも苦笑いするしかなかった。
「ははは・・・気を付けます・・・」
ハンスが入ってきた南の門からコープルのメインストリートが中央まで伸び、メインストリートの両サイドには沢山の店や屋台が集まっている。
メインストリートより先には職人街でその先は貴族等が住む貴族街。
メインストリートの突き当たりを左に曲がった所には農業地区。
つまりハンスの実家もその地区にある。
ハンスの実家までは南の門から歩いて約一時間位で辿り着く。
実家にたどり着き庭ではミトお婆ちゃんが庭で薬草の天日干しを行っていた。
「ミトお婆ちゃん!」
「ん?ハンスかい!?ふう・・・どうしてここに?試験はどうしたんじゃ!」
急に声をかけられビックリし、手に持っていた薬草が入った籠を落としそうになる。
薬草はミトお婆ちゃんにとっても、家族にとっても、御近所さんにとっても大切な物だ。
ミトお婆ちゃんが煎じた約束は良く効き、御近所では良い評判が良い。
本人は趣味の範囲と家族のため薬草を作っている。
そんなミトお婆ちゃんに対して俺は右手を突き出しピースサインをする。
「合格したよ!」
手に持っていた薬草が入った籠を投げるように地面に置きミトはハンスの母親のローズを呼ぶ。
「本当かい!こうしちゃおれん、ローズ!ローズ!」
さっきまで丁寧に薬草を広げながら天日干しの準備していたミトに対し今は雑に置かれた籠から薬草が溢れ落ちる。
「ああっ、ミトお婆ちゃん薬草が!」
「良いんだよ薬草は!」
いいのかよ!
いつもは大事そうにしてるのに・・・
ローズは今朝食の後片付けをしていた。
途中でミトに呼ばれ濡れた手を拭きながら、庭へ出てきたローズであったが、ハンスが帰ってきたことに気が付いたようだ。
「ミトさんどうなさったんですか?・・・ハンス!?帰ってたのね!」
「ハンスが剣魔学校を合格したそうじゃ!」
「本当ハンス!やっぱりハンスは凄いわね!ちょっと待っててオールは今畑に行ったばかりだから呼んでくるわ!」
ハンスの合格を知り慌ててハンスの父オールドを呼びに行くローズ、そのまま残ったミトと雑談をし二人が戻ってきたのはそれから10分位だった。
「ハンスやったな!流石は俺の息子だ!」
「もう、オールったら、ふふっ、でも凄いわよハンス!」
「本当にようやった!」
「はははっ、俺としては何か呆気なく終わってまだ実感は全く湧かないけどね・・・実際に一次試験しか受けてないからね・・・」
「「「えっ・・・一次試験・・・」」」
「ちょっと待て!ハンス、剣魔学園の試験は三次試験まであるんじゃなかったか?」
「ってことは・・・ハンスが言ってた合格って一次試験?」
あっ、駄目だ見事に三人とも混乱している。
とりあえず詳しくあった事は説明しなきゃ・・・。
その後は説明をし三人とも剣魔学校の合格は理解した。が、漠然としている。
剣魔学園と言えばこの大陸で一番の学校であり、合格するのは超難関とされていて三次試験を合格したものしか入学出来ないのだから。
ハンスみたいに一次試験で合格が決まるのは今まで無かった事であった。
それも理事長直々にとなれば尚更の事で、第三者からしてみれば理解出来ないのが普通である。
まだ合格したことへの証拠も何もないのだから特に。
だが
「まっ・・・ハンスだからじゃろうな・・・」
「ああっ、ハンスだからな・・・」
「そうよね・・・ハンスだもんね・・・」
今まであり得ない行動の集大成でもあるハンスだから最早それは納得していた。
「それにしても戻ってくるのが早いんじゃないか?」
旅立ってから戻ってくるまでにかかった日数が少なく、やはり疑問に思ったオールドは尋ねてきたが他の二人もそれは思っていたようでオールドに続いて質問してきた。
まぁ、家族なんだしぶっちゃげ全部話しても良いような気もしたので、コープルから旅立ってから今までのことを皆に伝えた。
実は俺の能力の事は秘密にしていたが、隠そうとしてもいつかはバレるだろう。
その時家族の皆にはどう言えば良いか俺には分からない。
だが今ならまだ言えるような気がした。
そしてバルベリアさんやベルナートさんの事も皆に話した。
最初は長い沈黙が訪れた。
その沈黙を始めに破ったのはハンスの母親のローズだった。
「ハンス?貴方はオールとの間に生まれた子ども・・・そう、それは変わらないわ。例えハンスに違う魂が融合?していてもハンスはハンスよ?どうしてもっと早く教えてくれなかったの?」
どうしてと言われたら・・・怖かった、ただ怖かった。
それを話したことにより父や母、それにお婆ちゃんまで居なくなるかと思った。
その事もちゃんと声にして伝えた。
ただ、目からは温かいものが流れ落ち、声も震えてしっかりとは話せなかった。
「・・・内容が内容だけに驚いたが、お前はずっと悩んでたんだな・・・気付いてあげれなくて本当にすまん!」
「そうじゃ、ハンスはわしのかわいい孫じゃな。そんなことで勘当するやつはここには居らんて。ほっほっほ!」
「み、みんな・・・あ、ありがとう・・・。」
そうして、全てを伝えた事によって何処か心がスッキリとしていた。




