第4話 ペンデュラム・ウィッチ
「もしもし、リリィさんや……」
「何ですか、お師匠? 約束ですからねッ! 約束を破ったら爪楊枝千本ですからねッ」
リリィは俺が言い終わるのを待たずに魔法筆を手にすると、そう言った。
ならば、弟子の勘違いを正すのも師匠の務めだ。
「魔法筆は『何でも』はできんぞ?」
「えっ――?? でも、みんな『何でもできる』って言ってたじゃないですか⁉」
ふと、あの国の住民たちの様子を思い出してみる。
……確かに、アイツら言ってたわ~~。
これは、何を言ったところで腑に落ちないだろう。
「……じゃあ、試しに……そうだな。俺を木っ端微塵にしてみろ」
「何を言ってるんですかお師匠ッ! 死んじゃうじゃないですか⁉」
リリィはまた、俺が言い終わるのを待たずに先走る。
「『何でも』できる魔法筆だったら、俺の肉片をかき集めて再生もできるはずだろ? どうだ?」
リリィは、生唾をゴクリと飲み込んだ。
「……わかりました。痛くないようにしますね」
ペン先を俺に向けると、その先端が戦友の瞳と同じように赫いた。
そこに浮かんだのは、俺でも初めて見る、短い文字列だった。
そして――。
書き終えても、何も起きなかった。
「お師匠…………この子、不良品じゃないですかッ⁉」
目を見開いて俺の最高傑作を見るリリィの手は、ガクブル震えていた。
「いやいや、ちゃんと文字はあったし……。ところでリリィ、なんでお前、空中に文字が書けるんだ?」
「えっ? この魔法筆が『書けるよ』って……」
「なるほどなるほど。ちょっと借りても良いか?」
俺も同じように空中に書いてみる。発生した魔法陣から、勢いよく大量の水が噴き出した。
だが、リリィの言う魔法筆の声は、俺には聞こえない。
それに、『空中に書き残す』ことは、マナの操作に長けた、選ばれた者にしかできないはずなのだ。
ここにいるのは、俺とリリィの二人だけ。リリィが凄いのか、魔法筆が凄いのか、どっちなのか分からない。
「お師匠――ッ、リリィの『ペンデュラム・ウィッチ』、返してもらって良いですか?」
「あぁ、悪かったな。……名前、つけたのか?」
「ん? この魔法筆がそう言ったんです」
リリィはそう言って、俺と同じように水を出して遊び始めた。
製作者は俺だというのに、ますますワケが解らん。
無心で作った時はいつもこうだ。だからこそ、面白い!
こういう時は、考えることを諦めるのが一番!
「とりあえず! 術師や魔法筆ができると言っても――最後の選択権は、いつもマナにあるってことだ。
せっかくだし、その魔法筆……ペンデュラムに、リリィの刻印を入れるか?」
「はいっ! この子も、そうしたいって‼」
こうして俺は、最高傑作の魔法筆に、『Lily』だけが使える刻印を入れた。
ただ――ひとつだけ、引っかかっていることがある。
あの時、リリィが書いた短い文字列。
あれは本当に、何も起こさなかったのだろうか。
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最高傑作の魔法筆に『Lily』の刻印が入って、ここでひと区切りです。
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次回は、アイルを追放した国の『その後』です。
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