第3話 愛弟子
「…………要りません。読み書きできないリリィのために作ったのなら、なおさら受け取れません」
「えっ……??」
俺の予想では、喜んで抱きついてくる……はずだった。
なのにリリィは、俺の最高傑作を要らないと言った。
意味がわからない。
「理由を聞いても良いか……? マナだって、これなら俺のマナや、自然に漂うマナを使う必要はないんだぞ? この見渡す限りの宇宙に溢れるマナを、無限に使えるんだぞ――――ッ⁉」
生まれて初めて人に渡した誕生日プレゼントを受け取ってもらえず、俺は少しムキになっていた。
「だからです。リリィには、そんな代物は扱いきれません。それに、仮に扱えたとしても……お師匠を『ただの便利屋』程度に見るようになった、あの国の人たちのようには、なりたくないのです」
そう言ったリリィは、初めて出会った頃のような――この世界に失望した顔をしていた。
可能性に溢れたプレゼントを渡したというのに。
「ふ~~ん。じゃあリリィは結局のところ、俺を国外追放したあの国の住民たちと同じってことか?」
「そんなこと――――ッ」
勢いよく言い返しかけて、リリィは黙ってしまった。
そんなことが無いのは、俺だって充分わかっている。
「ん? どうなんだリリィ? 言った通り、この魔法筆は読み書きできないお前でも使える。だが、それは今後一切、読み書きを覚えるのを諦めても良いってことじゃないんだぞ?
その意味、弟子のお前なら分かるよな?」
「……はい」
「ならよしッ! じゃあ、受け取ってくれるな⁉」
何を言ってるんだ、俺は。
師弟関係なんて、どうでも良いのに。
もう一度、プレゼントを差し出す。
「一つだけ……条件があります」
えええええええ?? 誕生日プレゼントって、受け取ってもらうのこんなに難しいのぉぉぉ⁉
内心、俺は焦っていた。
「うんうん、条件ね、聞く聞く! なんでも聞くから、お願いです! 受け取ってくださいッ」
なりふり構っている余裕は、もう無くなっていた。
これだけベストマッチなプレゼントを差し出して、条件まで付けられた男が、この世界に俺以外にいただろうか。
それとも、俺の勝手な思い上がりなのか。
「……では今後一切、何でもできる魔法筆は作らないでください」
「はいッ! …………はい??」
そんなことを言い出しても、リリィは俺の愛弟子だ。
いや、違うな。
かけがえのない、たった一人の愛弟子だ。
そう思いながら、俺はリリィの手元に視線を落とした。
彼女は、受け取った魔法筆ではなく――その隣に置かれた魔鉱石を見つめていた。
「……?」
何か言いたそうにしている。
だが、俺はあえて聞かなかった。
それが何なのかは、いずれ分かるだろう。
~~
この時の俺は、まだ知らなかった。
この魔鉱石が――リリィにとって、初めての一歩になることを。
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