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魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな? 〜国外追放されたので、弟子と気ままに旅をする〜  作者: 余田ナツ


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第25話 アリリィ

 ビリリと八人に導かれ、人間の知らない抜け穴から、地下の泉へと降りる。


 オーシャンブルーの光の中で、黒髪の王が、俺たちを待っていた。


「お待ちしておりました、神よ。先代様も」


 黒髪の王は、深く頭を垂れた。その後ろでは、老王が静かに目を細めている。


 ……来ると知らせた者は、いないはずだが。こいつらの勘は、相変わらず妙に鋭い。


 それから黒髪の王は、俺たちを案内してきた九人へも目を向けた。


「……皆も、よく戻りました」


 ビリリが、気まずそうに目をそらす。それから、膝をついた。


「王よ。人間どもが五十ほど、こちらへ向かっております」


 黒髪の王は、静かにうなずいた。


「抜け穴を通ってきたのなら、河原に着くまで、まだ間がありましょう。……見張りを」


 電殿むしが一体、洞窟の上へ走り出ていく。


 リリィは、一直線に駆けていった。


「王様! あなたの名前を、考えてきました!」


「……私の、名前を?」


「アリリィです!」


 リリィは、胸を張った。


「お師匠のアと、リリィのリリィです!」


 ……おい。


 なぜ、そこに俺の名前を入れる。


「なっ……なぜ王だけ、先代様のお名前を……!」


 後ろで、ビリリが歯ぎしりしている。


「それに、私(わたくし)の名前など、『ビリリ』……ただの火花の音ではありませんか! リリィ様は、名前の付け方に、センスというものが――」


「ビリリ」


 静かな声が、それを遮った。


「神から賜った名を、そのように言ってはなりません」


 アリリィの声だった。


 ビリリは、ぐっと口をつぐんだ。


 ……十人の中で一番地味な見た目の王様は、どうやら一番、肝が据わっているらしい。


「アリリィ。一つ、聞いてもいいですか?」


 リリィが、アリリィを見上げた。


「あの時……どうして、一番に立ち上がったのですか?」


 アリリィは、少しだけ目を伏せた。


「新しい神が、『おもてなしを』とおっしゃいました」


 そう言って、アリリィは自分の両手を見つめた。


「せっかく、手をいただいたのです。……一番に、それに応えたかったのです」


「王様になりたかったから、じゃないのですか?」


「あの時は、王の座のことなど、忘れておりました」


 リリィは、きょとんとしていた。


 それから――ぱっと、顔を輝かせた。


「アリリィ。リリィの……お友達に、なってください」


 あの、リリィがだ。


 人間の友達の話をすれば、師匠にすらガンを飛ばしていた、あのリリィが。


 ……まあ、相手は人間ではないが。


「……身に余る光栄です、神よ」


「神よ、じゃないです。リリィです」


「では……リリィ様」


 リリィは、少しだけ不満そうに――それでも、うれしそうに笑った。


~~


 リリィは、俺が担いできた服を、一人ずつに手渡していった。


 男たちには、くるぶしまで届くコート。女たちには、裾の長いワンピース。


 そして、アリリィには、白い上衣と緋色(ひいろ)の袴。


 袖を通したアリリィは、泉の光の中で、本物の巫女のように見えた。


 ……あれだけの金貨を払った甲斐は、あったらしい。


 問題は、ビリリだった。


「先代様。……これは、何の服です?」


 黒いワンピースに、白いフリルのエプロン。


 嘘をつく理由もないので、俺は正直に答えた。


「メイド服だな。主人に仕える者が着る服だ」


 ビリリの頬が、ぴくりと引きつった。


「……私に、人間の召使いになれと?」


「かわいいのに……」


 リリィが、むうっと唇を噛む。


 ビリリが、服を突き返そうとした――その時。


 洞窟の上から、一体の電殿むしが転がるように駆け込んできた。


「冒険者どもが、もう河原に! 数は、およそ五十!」


 八人の角が、一斉に火花を散らした。


「迎え撃ちます」


 ビリリが、メイド服を岩の上に放り出した。


「我らは戦士です。この泉は、我らが守ります」


 誰も、止めない。


 アリリィだけが、静かにリリィの前へ進み出た。


「神よ。……ご命令を」


 全員の目が、リリィに集まる。


 俺は口を閉じたまま、岩壁にもたれた。


 ――選択を間違えれば、この群れは壊滅する。


 リリィは、ぎゅっと目を閉じて――それから、開いた。


「――おもてなしを、します」


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