第24話 教官
朝靄の立ちこめる、街の門の前。
日の出までには、まだ一時間はある。それなのに、そこにはもう、二つの小さな人影があった。
「……二人とも。約束は、日の出だったはずだが?」
イークンとジーチャンだ。
ジーチャンが、くすりと笑った。
「それって、何かのご冗談ですか?」
……まあ、こっちも一時間早く来ているのだから、人のことは言えない。
「で、その後ろのフードの人は?」
イークンが、俺の背中越しに覗き込んだ。
コートのフードを目深にかぶったビリリが、無言で腕を組んでいる。
その時、フードの奥で――パチッ、と火花が散った。
「……え?」
イークンの目が、まん丸になった。
「つ、角……帯電……人型……き、金貨千枚――ッ⁉」
次の瞬間。
――ビリリッ。
イークンの髪が、ぶわっと逆立った。
「兄様⁉」
「……気安く、人を金貨で数えないでください」
ビリリは、ふんと鼻を鳴らした。……一応、手加減はしたらしい。
「この子はビリリです。お二人が探している『人型魔獣』の、ひとりです」
リリィが、さらりと言った。
「言っちゃうのかよ⁉」
「それから――」
リリィは、二人に向き直った。
「イークンとジーチャンの先生は、ビリリたちにやってもらいます」
「「「……はい?」」」
兄妹とビリリの声が、きれいに重なった。
「リリィは、人間が怖いです」
リリィは、ペンデュラム・ウィッチをぎゅっと握った。
「でも、お師匠のことも、アカネさんのことも……ちゃんと知ってからは、怖くなくなりました」
「だから、二人には、ビリリたちのことを知ってもらいます。ビリリたちにも、二人のことを知ってもらいます」
「し、知ってもらって……どうするんだよ」
「知っている人のことを、金貨千枚で狩ったりはしません」
イークンが、言葉に詰まった。
……俺は、口を挟まなかった。
挟む必要が、なかったと言うべきか。
昨日、俺がついた大ぼらは――どうやら、弟子のおかげで本当になったらしい。
「……神の、ご命令とあらば」
ビリリが、心底いやそうに頭を下げた。
~~
森の中は、殺気立っていた。
あちこちで、冒険者たちの怒鳴り声が響く。茂みには罠が仕掛けられ、木の幹には、誰かが付けた目印の傷が刻まれていた。
ビリリの案内で、獣道とも呼べない道を進む。
森の外れの岩場に、八人は身を寄せ合っていた。
どの角も、まだパチパチと音を立てている。
八人の視線が、兄妹に突き刺さった。
「……人間の子どもを、連れてきたのですか」
「今日から、この二人の先生になってもらいます」
リリィの一言に、八人がざわめく。
……無理もない。昨日まで、自分たちの命を狙っていた側の子どもだ。
イークンが小声で「いち、にい、さん……」と数え始め、ジーチャンに肘で小突かれた。
「兄様。数えないでください」
その時。
――ブオォォォ……。
森の向こうから、角笛の音が響いた。
ビリリの顔色が変わる。
「あの方角は……泉です!」
木々の隙間から、隊列を組んで進む冒険者たちが見えた。ざっと、五十人はいる。
先頭で声を張り上げているのは、頭に包帯を巻いた大男だった。
……包帯の下は、たぶん、ただのたんこぶじゃない。
続きが気になると思っていただけたら、ブックマークと下の★で応援してもらえると励みになります!




