第15話 雷雲
――――『電殿むし』。
俺は……彼らほど気性の変化が激しい魔獣を知らない。
彼らは言う。
守られるべきは、貴様ら人間のほうだと。
彼らは讃える。
ユニコーンの一角は、我らの次に美しいと。
彼らは賛美する。
雷雲を生み出す者は、神であると。
洞窟の奥から、青白い光の群れが押し寄せてきた。
額の一角に火花をまとい、雷光を照り返しながら――次から次へと、俺たちの脇を駆け抜けていく。
「ひゃあああっ⁉」
リリィが、俺の背中にしがみついた。
群れは洞窟を飛び出すと、土砂降りの河原で大きな輪を描きはじめる。
その輪の中から、ひときわ年老いた一体が進み出て、俺の前で頭を垂れた。
額に、一角はない。この群れの、今の王だ。
「お久しゅうございます、神よ」
「……おう。元気そうで何よりだ」
「か、神……?」
肩越しに振り返ると、背中のリリィが、ぽかんと口を開けていた。
「……それより、この雷雲を呼んだのは、こいつだ。俺の弟子だよ」
老王はリリィに向き直ると、さらに深く頭を垂れた。
「そして――この雷雲を生み出されたお方。我らの、新たな神よ」
輪を描いていた群れが、一斉に雄叫びを上げた。
気づけば俺たちも、雨の中へ引っ張り出されていた。
激しく地面を打ち付ける雨と、轟く雷鳴の中――。
電殿むし達による讃美歌の舞は、見ものだった。
彼らが円になって囲む中心では、電殿むし達が『神』と呼んでいた俺から、継承者への神位継承の儀が執り行われている。
儀式といっても、老王が古い言葉を唱え、群れがそれに合わせて歌い踊るだけのものだ。
「お師匠……リリィはこれから一体、どうなってしまうのでしょうか?」
リリィが目をパチクリさせているようにも見えるが、目に雨が入らないようにしているだけだろう。
「……単なる宴だ。気にするな」
視線が俺に向いたので、そう言って目を逸らした。
こいつらに神と呼ばれていたことは、弟子には一度も話していない。
「まぁでも、争わずに電殿むしの一角が貰えるからいいんじゃないか?」
俺たちの周りでは、讃美歌の舞が、高台へ向かいながらも続いていく。
「それに――ッ! 彼らが近くにいる限り、俺らに雷は落ちないしな」
何体目だろう……。
電殿むしの額の一角に、また雷が落ちた。
――バリバリバリッ!!
「ひぃっ!」
リリィが、小さく肩を震わせる。
だが、雷を受けた電殿むしは倒れるどころか、身体を激しく揺らしながら歓喜の声を上げた。
「おおおおおっ! 神の祝福だぁぁぁ!!」
「何で……雷を受けているのに、あんなに盛り上がってるのですか?」
「まあ、そういう生き物なんだろ? 神に献上できるチャンス権だしな」
……もっとも。
よく見れば、雷を受けているのは、舞の輪から外れて角を空に突き上げている奴らばかりだ。
歌いもせず、踊りもせず。ただ、雷だけを待っている。
まあ、いい。雷を受けて帯電できた者に、次の王となる資格がある。それが、この群れの決まりだ。
高台に辿り着くと、雨はあがった。
俺たちがやってきた街に、雲の切れ間から光が差している。
振り向くと――。
雷を受けた十体が一列に並び、帯電して輝く角をこちらに向けていた。
「リリィ。この中から、一角選ぶんだ」
「一角……?」
「あぁ。選ばれた一角の持ち主が、群れを率いる王となる」
「それは、つまり……」
「そうだ」
俺は、並んだ十体を見渡した。
「選択を間違えれば…………この群れは壊滅する」
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