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国外追放された魔法筆職人、弟子と気ままに旅をする 〜俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?〜  作者: 余田ナツ


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第12話 下手くそでもいい

 宿屋に戻ると、リリィはすぐに机へ向かった。


 机を挟んだ向かいで、リリィが白い魔鉱石の加工に悪戦苦闘している。


 だが、それでいい。


 最も加工の難しい魔鉱石は、加工が難しいくせに、仕上げのマナを流さない限り何度だってやり直しがきく。


 俺は、リリィに言った。


『下手くそでもいい』


 だが、数々の『自称』師匠たちを見てきた俺に言わせれば――この一言は、最も『悪手』だ。


 ゴミ以下の一言だと思っている。


 それでも、リリィにそう言った。


 なぜなら――『ゴミ以下』を知る必要があるからだ。


 リリィが頭の中で思い描いている魔法筆は、俺が作ったものに並ぶものだろう。それ自体は良い。


 だが、何度でもやり直せる魔鉱石なら――。


『本当に、これでいいのか?!』


 良い物を知っているほど、そんな疑心暗鬼の沼にハマる。


 そして、運の悪いことに、リリィは下手くその基準を知らない。


 ならば、自分の手で『下手くそ』の基準を作るところからが、スタートだ。


「デュラちゃん……ここ、どうしたらいいですか?」


 リリィが、机の端に置いたペンデュラム・ウィッチに話しかける。


 少しの沈黙のあと、リリィは頬をふくらませた。


「……『自分でやりなさい』だそうです」


 俺には聞こえないが、いい相棒を持ったものだ。


 リリィは、小さな手に自分のマナを集めた。


 白い魔鉱石の表面が、淡く光る。


 ……マナを持つ者がひとりもいない国で育ったくせに、こいつは当たり前のように、自分のマナを扱う。


 今さらだが、不思議な弟子だ。


「…………」


 しばらくして。


「……あっ」


 パキッ。


 細い音がした。


「お師匠……」


「ん?」


「……折れました」


「見れば分かる」


「ですよね……」


 リリィは折れた魔鉱石を両手で包み込んだ。仕上げ前の魔鉱石は、マナを通せば、また一つの塊に戻る。


「……もう一回、やります」


「おう」


 二回目。


 今度は折れなかった。形も、それなりに整っている。


「できました!」


 リリィが嬉しそうに顔を上げた。


「ほう」


 受け取った軸を眺める。確かに、最初よりは良い。


 だが――。


「……リリィ」


「はい」


「これでいいのか?」


「…………」


 リリィは、自分の作った軸を見つめた。指先で、表面をそっと撫でる。


 そして――。


「……よくないです」


「そうか」


 それ以上は言わなかった。


 三回目。今度は、さっきよりも丁寧だ。時間をかけ、何度も角度を変えながら形を整えていく。


「……お師匠。これも……違います」


「なら、やり直せ」


「はい!」


 その声だけは、妙に元気だった。


「やり直しは、あと三回までなあ~~」


 そう言ったのは、もう何度目だろう。


 俺は茶を啜(すす)りながら、リリィの手元を眺める。


 上手くいかない。だから、やり直す。


 やり直しても、納得できない。だから、またやる。


 それでいい。


 渡した魔鉱石で作れるのは、魔法筆の筆管……軸の部分だけだ。完成した魔法筆ですらない。


 それでも、リリィは何度だってやり直す。


 自分の下手くそは、師匠の俺が決めることではない。自分自身との決着なのだから。


「……お師匠。もう一回だけ……やってもいいですか?」


「……好きにしろ」


 その言葉を、何度口にしただろう。


 俺は眠気に負けて、目を閉じた。


 それでも、リリィの手が止まる気配は、最後まで感じなかった。


~~


 明け方。


 俺は、押し殺したようなすすり泣きの声で目を覚ました。


お読みいただき、ありがとうございます!


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