第11話 ウィッチ
その声は、少しはにかんだ女性の声だった。
「インドア派とアウトドア派……どちらですか?」
後ろの席から、そんな会話が聞こえてくる。
そして、俺と弟子のリリィが座るテーブルへ飲み物を運んできた店員が、申し訳なさそうに口を開いた。
「お客様……周りのお客様のご迷惑になりますので、魔鉱石を広げての実験は、お控えいただけますでしょうか?」
もちろん俺は――インドアもアウトドアも、どっちでもイケる口だ。
「にしても、魔法筆ってこんなに便利だったんだなぁ~~」
テーブルいっぱいに広げていた魔鉱石を、袋へと戻していく。
監獄街を出てから、俺は『Aisle』と『Crown』を試してばかりいた。魔法筆なしの魔法を封じた今、こいつらが俺の手そのものだ。
「そおですね~~。リリィも、デュラちゃんとお話ししながらお勉強できて、楽しいですぅ~~」
相も変わらず、俺にはリリィの言う『魔法筆の声』とやらが聞こえない。
それでも、自分専用の魔法筆の使い勝手の良さには、すっかり心酔していた。
「リリィ。魔法筆が友達なのも良いが……人間の友達は欲しくないか?」
別に、強要する気はない。
監獄街で、アオイに『あの子、同じ年頃の友達はいるのか』と聞かれたのを、ふと思い出しただけだ。
「……お師匠。その話は『しないでください』と言ったはずです」
どうやら俺は、過去にも何気なく同じことを聞いたことがあるらしい。
師匠だろうが、気に入らないことを言われた相手には容赦なくガンを飛ばす。今にも魔法をぶっ放しそうなその姿は、まるで若い頃の自分を見ているようだった。
振り返ると、後ろの席の二人が、そろって青い顔で固まっていた。
そりゃあ、周りが怯えだすわけだ……。
「リリィよ。今のお前に必要なものが何か、分かるか?」
「リリィには、お師匠とデュラちゃん以外、何も必要じゃありません」
「うんうん……そういうことではない」
では、と俺は質問の仕方を変えた。
「なぜ俺のことを『師匠』と呼ぶ?」
「それは……お師匠が魔法筆を作っている姿が、楽しそうで……カッコイイと思ったからです」
「つまり、リリィも魔法筆職人になりたいわけだな?」
「そうです――ッ!」
リリィが勢いよく立ち上がった。背後で、がたっと椅子の鳴る音がした。後ろの席の二人が、飛び上がったらしい。
「だが――魔法筆で魔法が使えるようになったのに、未だに魔法筆を一本たりとも作り上げられないのはなぜだ? その魔法筆があれば、二時間もあれば一本は作れるはずだぞ」
「それは……リリィが未熟だからです」
そう言ったリリィからは、先ほどまでの威勢の良さが消えていた。
だからこそ――師匠として、教えなければならない。
「違うな」
俺はリリィを見る。
「その賢い頭で、俺にどう見られるかを気にしているからだ」
「…………」
図星だったのだろう。リリィは、ぎゅっと唇を結んだ。
「下手くそでもいい」
俺は袋の底から、最も加工の難しい魔鉱石を一つ取り出した。
白く、ずしりと重い石。
誕生日の夜、リリィが受け取った魔法筆ではなく、じっと見つめていた石だ。あの夜から、ずっと袋の底にしまっておいた。
「リリィの初めての一品――俺に見せてくれ」
リリィは目を丸くして、魔鉱石と俺の顔を何度も見比べた。
それから小さな両手で魔鉱石を受け取ると、ぎゅっと胸に抱く。
「……見ていてください、お師匠」
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