第2話
「にゅ、入社ってどういうことですか……?」
戸惑う陽子に対し、通話相手は淡々と説明する。
「そのままの意味です。あなたは弊社のサービスを利用しました。その見返りとして入社いただかねばなりません」
「い、いきなりそんなこと言われても……報酬の話だってちゃんと聞いてませんし……」
「説明義務はありませんからね。詳しく確認しなかったあなたの責任です」
通話相手は冷徹に応じる。
その声音からは微塵の心の揺れも感じられない。
「それでは、また後ほどご連絡を差し上げます。これからよろしくお願いします」
「ちょ、ちょっと待って」
陽子が止めようとするも、通話は一方的に切られた。
周囲が校庭の死体で騒然とする中、陽子は泣きそうな顔になる。
「どうしよう……」
結局、その日は休校になり、生徒は速やかに帰宅することになった。
自宅に着いた陽子は、ポストからはみ出した封筒に気付く。
宛て名は一切書いていない。
中を確認すると、スマートフォンとメモ用紙が入っていた。
メモ用紙には「今後はこの端末を使ってください」という一文が記されている。
「住所も知られちゃってるんだ……」
陽子はその場に崩れそうになるも、なんとか耐えて家の中に入った。
その後、陽子は昼食も夕食も食べずに自室に引きこもる。
彼女は度重なる不安と恐怖、ストレスでろくに眠れずに朝を迎えた。
午前七時になると同時に、支給されたスマートフォンが着信音を鳴らす。
陽子は震える手で通話ボタンを押した。
「も、もしもし」
「おはようございます。さっそく仕事です。クラスメートの鬼島英子さんを殺してください」
「え……?」
陽子は頭の中が真っ白になる。
鬼島英子は、同じクラスの不良生徒だった。
「どうして鬼島さんを……」
「あなたが理由を知る必要はありません。成功報酬は十万円です。拒否したり失敗すれば、相応の代償を負っていただきます」
そうして通話が切れる。
陽子は目の前がぐにゃりと歪むような錯覚に襲われた。
「殺さないと代償って……」
刹那、陽子がむせび泣いた。
それからカッターナイフをポケットに仕舞うと、制服に着替えて自宅を飛び出す。
自転車を全力で漕いで向かった先は鬼島英子の家だった。
たまたま小学校、中学校ともに一緒で住所を知っていたのである。
陽子がインターホンを連打すると、鬼島が迷惑そうに玄関を開けて顔を出した。
「……何」
「え、えっと……」
「当ててあげよっか。あたしがあの三人を殺したと思ってるんでしょ」
「え?」
「みんな疑っててさ、昨日からずっとメッセージで訊かれるんだよね。全然関係ないっつーの。まあいいけどさ」
英子は自虐的に述べる。
それから彼女は探るような目つきで尋ねた。
「それで、月永さんは何の用?」
「…………」
息を呑む陽子は、ゆっくりとカッターナイフを取り出した。
そして地面を見ながら告げる。
「じ、実はちょっと死んでほしくて……」
「は?」
「ごめんなさいっ!」
陽子がカッターナイフを持って突進する。
しかし、英子の蹴りが顔面に炸裂して吹っ飛ばされた。




