005 ホワイトキャット
「ここが私たちのアジトです。どどん! さあ遠慮なく上がってください」
リンチェに案内され、俺は港から少し離れた町へとやって来ていた。
クラブ本部と聞いていたから、てっきりギルドの支部みたいな建物を想像していたのだが、普通の家じゃねこれ?
目の前にあったのは、二階建てのこじんまりとした民家。
壁には白い猫の看板が掲げてあった。
なんと慎ましやかなクラブ。
中へ入ると、さらに一般のご家庭感は強まった。
木製のテーブル。
古いソファ。
小さな台所。
壁際には魔導書や工具が雑多に積まれていて、生活感が凄い。
「おかえりリンチェ先輩。あれ、その人は?」
先客?
いや、このクラブの組員だろうか。二人の少女がいた。
一人は栗色の髪をサイドテールにした快活そうな少女。
もう一人は。
「……」
ソファに座ったまま、本へ視線を落としている小柄な少女。
褐色肌が特徴的で、こちらが入ってきてもほとんど反応を示さない。
ただ、ちらりと一瞬だけこちらを見た。
「ただいま戻りました、ユルナ、マヤ。この人は先ほど私を助けてくださった方です。えっと、名前は?」
「ライノだ」
俺が名乗ると、栗髪の少女がぱっと笑顔になった。
「私はユルナだよ〜! 属性は風魔法! それからお兄ちゃん萌えかな?⭐︎ よろしくね!」
続いて褐色の少女が、本から目を離さないままぼそりと呟いた。
「……マヤ。土魔法使い」
以上。
ずいぶんと無愛想な人だ。
しかし、なんだ、この国には名乗る時に自分の属性まで紹介しなくちゃいけない謎ルールでもあるのだろうか。
あとお兄ちゃん萌えって何だ……?
「それともう一人。ここにはいませんが、無色魔法使いのサーティがいます。以上4人がこの"ホワイト・キャット"のメンバーです。以降お見知りおきを」
そう言ってリンチェは恭しく頭を下げた。
「どぞどぞ、座って!」
ユルナが椅子を一つ抱えてきた。
軽く礼を言って、なんとなくマヤの隣に腰掛ける。
「……」
何を読んでいるのか少し気になって、横からちらりと覗き込んだ。
…………。
よ、読めねぇ……!
ミミズみたいな文字と幾何学模様がずらりと並んでいる。どこの言語だよソレ。
「……?」
マヤがじっとこちらを見た。
無表情だが、「何か?」と言いたげな視線だった。
「あ、いや。何でもない。何の本読んでるのか気になってだな」
「そう」
会話はそれで終わった。
20分ほど経っただろうか。
暇だ。
「ん?」
奥の方から甘い香りが漂ってきた。
「じゃじゃーん、クッキー焼いてきたよ!」
「どうぞ、召し上がってください」
いつの間に着替えたのやら、ユルナがエプロンと三角巾姿になって再び現れた。
二人が運んでくる木のプレートの上には、こんがり焼けた大小不揃いなクッキーががずらりと並んでいる。
ザ・手作りって感じの見た目。
バターの香ばしい匂いがふわりと広がる。
旅続きだったせいか、こういう家庭的な匂いは妙に腹に来た。
それじゃあまあ、せっかくだし頂くとしよう。
焼きたてのクッキーを一枚摘み、そのまま口へ放り込んだ。
サクッ、と軽い音
お。
こう言うと失礼かもしれないが、味は思ったよりちゃんとしてる。
「どうでしょう、お口に合いますか?」
リンチェがじっとこちらを見る。
「ああ。美味いな」
「やったぁ〜!」「頑張った甲斐がありました」
リンチェとユルナがぱんっとハイタッチをする。
大袈裟だな。
「ところでさ、先輩って見た感じこの国の人じゃないよね?」
ユルナが興味津々といった様子で身を乗り出してくる。
「ん、そうだな。出身はベルデンブルク王国だ」
「へ〜、随分遠くから来たんですね」
「ああ」
再びクッキーを齧る。
「それで、ここには観光で来たんですか?」
「…………まあ、そんなところだ」
言葉を濁した。
まさかこいつらも、俺が国を追い出されてこの地に来たなんて思ってもないだろうしな。
ここは黙っておくことが一番賢い選択だろう。
「ありがとう。ごちそうさん」
「いえいえ♩」
「それでは、5人目の仲間を記念して乾杯しましょうか?」
「おっ、いいねそれ、賛成〜!」
「ライノさんもどうぞ」
「え、ああ。悪いな……」
流れで渡されたグラスを受け取る。
中身はぶどうジュースだ。
……ん?
「「カンパーイ!!」」
「……って、ちょっと待て! いつの間に俺が仲間になるって話になってんだ!?」
俺は勢いよく椅子から立ち上がった。




