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004 花火玉

 それから森を抜け、山を越えた。

 二度とあの面を見なくて済むように。


 船にも乗り、海を渡った。

 二度とあの光景を思い出さないために。


 できるだけ王国から遠く離れた場所を目指した。

 当てもなく進み続ける旅だったが、ようやく終着点が見えてきた。


『ニューカッスル』


 それがこの辺境にある国の名前だ。

 寒冷地ゆえ農業には向かないが、牧羊と海運で細々と成り立っているらしい。

 それ以上の情報は知らん。

 ここを選んだ理由も特に無い。

 別に食うことにさえ困らなければどこだってよかったからな。


 船が岸に着く。

 俺は荷物袋を肩に担ぎ、そのまま港へ降り立った。

 異国の地の新鮮な空気を深く吸い込んで、肺の中いっぱいに入れた。


「……ん?」


 港へ続く石畳の道を歩いていた俺は、ふと足を止めた。


 沿岸部には、大砲がずらりと並んでいる。

 海賊対策だろうか?

 港町ではそこまで珍しい光景でもない。


 だが。


「……んん?」


 一門の砲口から、何かが飛び出していた。

 いや……違う。

 飛び出しているのは――人の脚だ!

 しかも、ぴくぴく動いている!


「…………」


 数秒、思考が止まる。

 改めて砲身を見る。


「って、おい待て!? よく見たら導火線に火が点いてるじゃねーか!!」


 バチバチバチッ――!


 火花を散らしながら、導火線がみるみる短くなっていく。


 周囲の人間は砲身に人が詰まってることなど気づいてすらいない。

 いや……普通に考えたらそうだよな。

 どこの誰だか知らないが、何やってんだ!?

 俺は反射的に駆け出した。

 人混みをかき分け、全力疾走。


「どけっ、危ねぇ!!」


 導火線はもう残りわずか。

 考えるより先に身体が動いていた。

 俺は砲口から突き出た両脚を掴み、力任せに引っ張る。


「うおおおおおっ!!」


 スポッ!!


「あっ」

「あっ」


 抜けた。

 砲身から引き抜かれた"そいつ"と真正面から目が合う。


 女の子だった。

 呆けたような顔でこちらを見ている。

 一瞬とも、永遠とも感じる沈黙。


「――って、やばい!!」


 俺は我に返る。

 導火線のカウントダウンは、もうゼロだ!

 咄嗟(とっさ)に少女を抱え込み、そのまま後ろへ仰け反る。


 次の瞬間!


 ドッカァァァァァンッ!!!


「〜〜〜っ!」


 凄まじい衝撃。

 大砲から祝砲が放たれ(※ただの砲撃)爆音を港内に響かせた。

 俺はそいつを抱えたまま石畳の上を転がった。


「……っはぁ、はぁ……」


 なんとか直撃は(まぬが)れたらしい。

 恐る恐る腕の中を見ると……

 よかった。胴体から上は繋がっているようだ。


「あの」


 腕の中から、ひょこっと少女が顔を覗かせてくる。


「このバカ! もう少しで死ぬところだったぞ!」

「いえ、これは」

「まさか砲玉代わりに自分の頭をつっこむやつがいるとはな、そんな馬鹿がいるなら一度くらい顔を拝んでみたいと思ったが、偶然通りかかって正解だったぜ」


 少女は目をぱちぱちと瞬きさせている。

 少し言い過ぎたか。


「はぁ……。ま、結果的に助かったんだ。これ以上とやかく言うつもりはないけどさ」


 そう言ってから、俺は改めて少女を見る。


 ブロンドの金髪に、ぱっちりした碧い瞳。

 体は細いし、小柄だ。

 どこか小動物みたいな雰囲気を感じる。


「ほんとに何やってたんだ? てか退()いてくれると助かるんだけど」


 俺が仰向けで、その上に彼女が馬乗りになっている。

 重くはないが野次馬の目が気になる。


「花火の実験です」

「実験?」

「はい。この大砲なら打ち上げにちょうどいいと思って、花火玉をセットしていたんですが……その時に砲身へ挟まって動けなくなってしまいまして。そこを、あなたに助けていただいたというわけです」


 マジのアホだこいつ。

 しかも「何かおかしいですか?」と言わんばかりにピンと人差し指を上に向けながら説明するし。

 はあ……バカバカしい。付き合ってられねえ。

 服についた砂を払い、立ち上がる。


「じゃ、俺はもう行くから」

「あっ…… 」


 すると、少女がぺこりと頭を下げた。


「この度は、助けていただきありがとうございました」

「別にいいって。それより、もう危ないことするなよ」


 今度こそ去ろうとした、その時。


「待ってください」


 再び呼び止められる。


「私はリンチェといいます。この町でクラブを運営している者です」

「クラブ? お前が?」

「はい。正式にお礼がしたいので、よければ私たちのクラブに来ていただけませんか?」


 こんな小さなお子様が、クラブを運営しているだって……?

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