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006 人手不足

何時(いつ)って……仲間になる流れじゃないんですか?」


リンチェがきょとんと可愛く首を傾げる。


「いや、そんなお約束みたいに言われても知らないから」

「私たち、同じ(さかずき)を交わした仲じゃないですか〜」

「ただのぶどうジュースじゃねえか」


 するとリンチェが急に真顔になった。


「ライノさん……このクッキー、いくらすると思ってるんですか?」

「えぇ……急に何だよ?」

「スター銀貨50枚です」

「高くねっ!?」


 思わずツッコミを入れてしまった。


「いやいやいや、嘘つけ。どんな高級菓子だよ。てか、さっきそこで作ってたの見たし!」

「せっかくライノさんが加入してくださると思って用意したんですよ?」


 そんなの了承した覚えない。

 銀貨50枚か……、べつに払えなくはないな。


「それじゃあ、払えばいいのか?」

「ええー、払っちゃうの?」


 リンチェとユルナが露骨(ろこつ)に残念そうな顔をした。

 払ってほしいのか欲しくないのかどっちなんだよ。


「あのさ、なんでそんなに俺に入って欲しいんだ?」


 俺は椅子にもたれながら(たず)ねた。


「俺も事情を詳しく把握してるわけじゃないが、この国にも冒険者を募るためのギルドくらいあるんだろ?」

「ありますよ」


 リンチェは頷く。


「それなら、仕事を探してるやつなんてすぐ見つかりそうな気がするが」

「それがですねぇ……実は最近、あるブームが起きてるんです」

「ブーム?」

「はい。人呼んで"クラブ戦国時代"です!!」


 どーん。

 って、何だそりゃ。


「魔物やモンスターの発生件数がここ数年で急増しまして。需要が爆発的に増えた結果、私たちみたいな零細(れいさい)クラブが大量に設立されるようになったんです」


 なるほど。

 つまり、クラブの数に対して人の供給が少なすぎて、どこも人手不足状態ってことか。


「人材の数には限りがあります。優秀な冒険者は大手クラブが高額報酬で囲い込みますし、新人は取り合いです。今では大小合わせて千以上のクラブが存在していると言われています」

「千!? ニューカッスルが冒険者ギルドの発祥(はっしょう)の地だとは昔聞いたことはあるが、それにしたって多すぎやしないか?」

「この国には世界中から冒険者が集まりますからね」


 なるほど。

 そういわれると、港に着いた時から感じていた活気にも説明がつく。


「ですが、良いことばかりでもありません。引き抜き、縄張り争い、仕事の奪い合いは日常茶飯事ですし、最近はクラブ同士の抗争にまで発展することも多くて問題になっているようです」

「しかし、それだけの数のクラブもあれば競争も激しいだろうに、お前らはよく生き残ってるな」

「わたしたちも決して安泰ではありませんよ? だからこそ、新しい仲間は大歓迎なんです。私たちとしても、あなたにはぜひ来てほしいところではありますが、もちろん無理()いはしません」


 俺は少し黙り込んだ。

 まあ正直、悪い話ではない。

 衣食住の問題は解決するだろうし、外国人の俺にも市民権が得られるかもしれない。

 しかし、即決はできないな。


「少し考えさせてくれ」

「はいはい! 一つ質問なんだけど、そもそも先輩って戦えるの?」

「それを知らずに連れて来ちゃダメだろ」


 俺が素人でもお前らは魔物とかと戦わせるつもりだったのか。


「剣を持ってたので、とりあえず連れて来ました」

「まあ一応、その予想は当たりだ。俺も少し前までは専門(プロ)だった、()冒険者だ」


「おおっ!」


 ユルナがぱっと顔を輝かせた。


「元ってことは、今はもうやってないの?」

「色々あってな。今は職探し中だ」


 するとリンチェがぽんと手を叩く。


「それなら決まりですね」

「待て、まだここに入るって決めたわけじゃ……なあ、一つ確認なんだが、給料ってちゃんと出るのか?」

「もちろん出ますよ?」

「いくら?」


 こんな小規模クラブだ。

 せいぜいお小遣い程度だろうと思っていたのだが。


「歩合込みで、月スター銀貨50枚です」

「!!??」


 一瞬、聞き間違いかと思った。


「新人にそんな払って大丈夫なのか? 俺の国じゃ中級ランカーの額だぞそれ」


 ベルデンブルクなら、平民が一生懸命働いてようやく届くかどうかの額だ。

 だがリンチェは不思議そうに首を傾げた。


「そうなんですか? この国では最低月俸(げっぽう)ですよ?」


 ……どうやら、世の中には俺の知らない常識がたくさんあるらしい。


「ってことは、探せば他に待遇のいいクラブはいくらでも――《ガチャッ》おい、なぜいま鍵を閉めた」

「だって先輩、いま他のクラブに行くって言おうとしたよね?」

「いや、言ってな……」

「え〜一緒にやろーよー!」


 ユルナがずいっと距離を詰めてくる。


「そうですよ。ここよりアットホームな職場、他にないですよ!」


 それ……逆に不安を(つの)る言い方なんだが。


「それに、なんと今ならクッキーも付きますよ!」

「それは別にいい」


 でも、不思議と嫌な気分ではなかった。

 グランディアを追放されてからずっと、周囲には敵意しか無かったから。


 それに比べれば――


「うーん」


 少しだけ考えて。

 そして、決めた。


「分かった。入る」


「!!」


 二人の顔がぱっと明るくなる。

 ここで会ったのも何かの縁だろう。

 へんな奴らだが、悪い奴らじゃなさそうだしな。


「やったぁ!!」


 ユルナが飛び跳ねる。

 リンチェも満足そうに頷いた。


「それでは」


 再びグラスを掲げる。


「5人目の仲間を祝して、乾杯しましょう」


 今度は俺もちゃんとグラスを持ち上げた。


「「乾杯ーっ!!」」

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