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017 町の開業医

 家を出た俺たちは、薬屋のある通りへ向かって歩いていた。


「突然こんなことに付き合わせてしまい、申し訳ありません」


 サーティが頭を下げる。


「それは構わないが。ところで、どうして元気なほうの羊まで一緒に連れてきたんだ?」

「あの子たちは親子なんです。動物といえど、親子を引き離すなんてひどいことはできませんから」


 彼女は困ったような笑みを浮かべた。


「しかし、よくここまで運んで来れたな」

「ふふ、わたし、人よりちょっとだけ力が強いみたいで」


 ちょっとどころの話じゃないと思うが……

 どう考えても羊二頭を丸ごと抱えて歩くのは、大の男でも厳しい重さだ。

 だが本人は本気で分かっていないらしい。

 もしかしたら天然というやつかもしれない。


「私からも質問してよろしいですか?」


 しばらく歩いたところで、不意にサーティが口を開いた。

 サーティは俺の顔をまっすぐ見つめていた。


「ライノさんは、どうしてこのクラブに入ったのですか?」


 その問いに、俺は思わず足を止める。


「この国には、他所と比べても多くのクラブがありますよね」

「ああ。そうだな」

「数多くあるクラブの中で、私たちのクラブは、それほど魅力的に映りましたか?」


 その瞬間だけ、彼女の温和な雰囲気が消え、視線が鋭さを帯びた気がした。


「……」


 どうやら、俺が本当に信用できる人物なのかを見極めようとしているらしい。

 考えてみても当然か。

 リンチェもユルナもマヤも、このクラブのやつらはなぜか年頃の女の子ばかりだ。

 そんなクラブに、どこの馬の骨とも分からない男が突然入ってきた。

 やましい目的があると疑われても不思議じゃない。

 むしろ仲間を預ける側なら、そのくらい警戒するのが普通だろう。

 しかし、このクラブに入った理由……か。

 少しだけ考える。

 だが答えは最初から一択だった。


「この国に来て、初めてあいつらが誘ってくれたから」


 嘘は言っていない。

 リンチェが勧誘してきて、ユルナが笑顔で迎えてくれた。マヤも……まあ、反対はしていなかったと思う。


「えっと……それでは、ライノさんは海外から来られたのですか?」

「言ってなかったか?」

「初耳です」


 なるほど、とサーティは小さく頷く。

 どうやら俺をニューカッスル出身だと思っていたらしい。

 事情も知らない旅人を、リンチェが半ば勢いでスカウトしてきた。そんな風に解釈したのだろう。

 まあ実際、大きくは外れていない。

 サーティは少しだけ納得したような顔になるが、その表情にはまだ僅かな警戒心も残っていた。

 一度や二度話した程度で信用しろという方が無理な話だ。これから時間をかけて打ち解けていけばいいだろう。

 そんなことを考えているうちに、俺たちは大通りへ出た。

 石畳の道が四方へ伸びる十字路。

 行き交う人々を避けながら歩く。


「それで、医者ってどんな人なんだ?」


 俺が(たず)ねると、サーティは答えた。


「昔、とある探検家の船で船医をされていた方です」

「船医?」

「はい。何十回という航海に同行し、そのたびに多くの命を救った素晴らしい方ですわ」


 海の男たちを相手にしていた医者か。

 それなら腕は確かなんだろう。


「今は(おか)に上がり、この町で治療院(ちりょういん)を開いています」

「へぇ……やけに詳しいな」

「ええ。生まれも育ちも、この町ですから」


 しばらく歩いた先でサーティが立ち止まる。


「こちらです」


 そこに建っていたのは、古びた木造の建物だった。

 名医の治療院というよりは、(さび)れた酒場の方がしっくりきた。

 サーティが扉を押し開く。

 ギィ、と軋んだ音が鳴った。

 奥の椅子に、一人の男が座って酒を飲んでいた。

 五十がらみの男で、体格は良く、恰幅(かっぷく)もある。

 だが、その顔には活気がなく、机の上には空きかけの酒瓶が転がっている。

 男はグラスを傾けながら、陰鬱(いんうつ)な目でこちらを見た。

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