第28話 『Who are you?』
――――夢を見た。
真っ白な空間に、ペル・クロークとナルセ・タツキだけが存在している。
「楽しいドリームタイムのお相手がお前か。ついてねぇな」
「違う。ボクはペル・クロークじゃないよ」
「いやいや、仮面つけてる変人なんてクロさんぐらいしかいねぇって」
「見た目なんてただの飾りだろ? 中身が彼だとは限らない」
「………じゃあ誰だって言うんだ?」
「さぁ。それは言えない」
相変わらず仮面をつけたまま話している。その様子はいつもの彼と何ら変わりない。少し口調がズレているぐらいだ。
現実だと言われても信じてしまうほど、くっきりとした夢だった。
「なら質問を変える。何でお前が俺の意識に入ってきたんだ?」
「愚問だね。君がボクを呼んだからさ」
「俺はその逆だと思ってるけどな」
「………」
急に黙り込むクローク。図星だったか。
「《成功者》の一人が君だったんだ」
「……はぁ?」
唐突に発せられた言葉に理解が追いつかない。
何の話をしているんだ?
「理解しようとするから余計に分からなくなるのさ。君はボクの話すことを聞いてればいいんだ」
「随分と強引なやり方じゃねぇか」
「最後の《完全体》は君だったんだよ、ナルセ・タツキ」
「だから何のことだよ?」
「君が持つのは《強奪》の力。使い方次第で個体01に及ぶ、精度の高い能力だ。――今は何故か封じられているけれど」
「スルーかよ……」
「予言しよう。近いうちに君は窮地に立つだろう。そして君は、危機を乗り越えられずに死ぬ」
「……!?」
どんどん話を進められ、最後には死の宣言をされた。何と言っていいのか分からず、口を開けたまま呆然とする。
「自分の無力さを呪うなら、底に眠る力を否定するな。いいかい? 力を得なければ、君は確実に死ぬんだ」
「んなこと急に……」
舞台が夢じゃなければとっくにオサラバしているところだ。変な勧誘はお断りする主義なので。
「ボクは君の敵じゃない。味方だ」
「………」
信じられるわけがない。
「信じるんだ。ボクを。君自身の力を」
「………」
俺に力なんて無い。
「君の持つ力は絶大だ。君が何かを奪おうとすれば奪えるだろう。君が消したい全てが消せるだろう。君が世界の破滅を望めば滅びるだろう。―――信じてくれるね?」
「フレシアも……」
固く閉ざしていた口が自然と動いていた。
これだけは確かめなければいけないと思ったのだ。
「なんだい?」
「その力で、フレシアも奪えるのか」
喉が渇く。ツバを飲みこんで、何とかその問を放ることができた。
「当然だよ。人間の心一つ、君なら簡単に手に入る」
仮面を揺らして肯定してみせる。勝利を確信したような笑い声が響いた。
タツキの信頼を得たと思ったのだろう。
―――――ばぁーか!!!
「なら、俺は意地でもそんな力使わねぇ! わざわざ俺の頭の中までご苦労さんでした。じゃあな」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
予想外の返答に、✼✼が慌てる。
タツキの態度が信じられないといった様子だ。
―――あれほど望んでいた力が目の前にあるのに、捨ててしまうなんて。
「あんなに力を欲しがってたじゃないか! 拒む理由なんて無いだろう!?」
大慌てで説得にかかる姿が面白い。
クロークの姿だから二倍の面白さがあるのだ。
「やっぱ馬鹿な選択なんだろーな。でも、俺には向いてない。だからいらん」
「む、向いてない……?」
そんな理由で決めることじゃないだろうに、とでも言いたげだ。
「それに、俺は個人的にお前が気にいらねぇんだ」
「―――!」
「てことで、悪いな。フレシアは自分の力で振り向かせるから」
「…………やっぱり、君は君だ。数年前と少しも変わってないや」
「――。あの、初対面ですよね?」
昔の友人あるある、相手は自分を知ってるのに自分は相手を知らない。いつも名前が思い出せなくて気まずい流れになるのだ。もし今回もそのパターンなら、だいぶ相手に失礼になってしまう。
「初対面ではない……かな。まぁ、ボクは帰るとするよ。気が変わったらいつでも力を求めることだ。きっと君はそうするだろうから」
「ちょ、名前は―――」
そう言って手を伸ばすと、世界が歪んだ。
―――夢から覚める。
✽✽✽✽✽
「………はぁ」
目覚めは最悪だった。
見た夢の内容が内容だからだ。
今思い出すと、かなり低レベルな言い合いをしていたと思う。力を望みすぎて、夢にまで影響が出てしまったらしい。脳がファンタジー要素に侵されている気がする。
その後、宛もなく彷徨っているとシンに出会った。厨房でのひと悶着があったことで少しギクシャクしていたが、相手はプロの使用人。昼食の用意完了を告げた時も、特に顔が引き攣っていることはなかった。引き攣ったのは、「その髪似合ってますね」と言うときぐらいだ。そんなに茶髪が似合ってないのか。
とにかく、深く追求せずにお互い水に流すべきだと判断し、彼を伴って食堂に向かった。
二階にある食堂では、半ば暴食気味に昼食を貪っていたタツキを、ルイが片手チョップを食らわせ撃沈。 クロークの姿がないことで、ストッパーを失った人たちの無法地帯となっていた。使用人たちから、何故かタツキはツキと改名された。それにクロークの前以外で様付けすることはやめたらしい。確かに身分は下の下だが。
午後は屋敷内を散策をしたり、女子塔への扉に手を掛けて雷撃をくらったりと、自由気ままな時を過ごしていた。それにしても、廊下にいた時間が一番長かった気がするのはなぜだろう。たぶん屋敷中を歩き回っていたからだと思うが。
探索中には二つ結びにしたカルトに会った。幼女感が更に増しており、相変わらずとろんとした目をしていた。話しているうちにリクが嫉妬の念がこもった唸りをしながら現れたため、会話は会話にならず中断されてしまったけれど。
水晶が青色に変わってきた頃には、どこからかやってきたルイに着替え一式を渡され、一番上に畳まれた男用の下着に絶句。耳まで赤くなるを感じ、思わず端正な顔立ちの彼女を見るといつもどおりの無表情だった。完璧フェイス。
『ぱんつ……』言葉にならない声は、風とともに消えた彼女に届いたのだろうか。多分答えはノーだ。神出鬼没なルイにデリカシーを求めるのは間違っている。まだ未使用モノでよかった。




