13話 夢の日常
赤くて鸚鵡の形をしたぬいぐるみ。間違いない、あれは抽選で10名にしか配れていなかったはずの昨日僕の家にも届いたやつと同じものだ。なぜ彼女があれを持っているのか。疑問はそれだけじゃない。さらに気になることは、どうして彼女は僕にあれを隠そうとしたのか、ということだ。
様子を見るように僕は話を切り出した。
「それってペルーシュだよね。僕も同じものを持っているんだ」
「そう。あなたはどこまでこれについて知ってるのかしら」
「頭がおかしい、って思うかもしれないけど。僕はノートに書かれていたことが全部真実だと考えてる。と言っても、ルールの5、 以上のルールのうちどれか1つでも破った場合にはペルーシュとなってしまうのでご注意を 。あれだけは確認しようがないけど」
「ノート?」
「君の家にもそれと一緒に入ってたでしょ?」
「え?...ああ。そうね、確かに入っていたわ」
彼女は一歩遅れてノートが入っていたことにうなづいたが何かを隠していることは間違いない。ノートを持っていないとすれば、このノートのルールを知らないわけで、どこまでこれについて知っているのかしら、なんて言葉が出てくるわけがない。かと言って、ノートを持っていないふりをしたとしても、何かメリットがあるとは思えない。一体彼女は何を考えているんだ。
全く彼女の意図が見えない僕は短い疑問で会話を繋いだ。
「1つ聞きたいんだけど、なんでさっきぬいぐるみを隠したの?」
「べ、別になんとなくよ、そんなのどうでもいいじゃない」
少し慌てた様子でお茶を濁す彼女はとても怪しかった。なぜ彼女はうやむやな回答ばかりをするのか、まるで見当もつかなかった僕はさらなる問いを投げかけようとしたその瞬間。
チリトリを獲得した白井が僕たちの終わりそうもない会話を見兼ねて、横槍を入れた。
「あんたたち、いつまでイチャイチャしてるのよ。さっさと生活指導室に行きなさいよね」
「イチャイチャなんてしてないよ」
「イチャイチャなんてしてないわよ」
二人の声がハモり、耳が熱くなる。
「息ぴったり」
「リア充死ね」
「あ〜あ、怒らせちゃった」
「早く帰りたい」
箒を持った掃除組メンバーは各々自身の感情を吐き出し、耳が痛い。当初の声をかけて、この場を去るというミッションをあまりにも気になることが多すぎて完全に忘れていた。
「とりあえず、話は後にしよう」
そう言って、小走りに教室を抜けて廊下へと出ると、廊下にはまだ部活に行きたくない連中が着替えて立ち話をしていた。
「えっと.......このまま生活指導室にいく、でいいのだよね?」
まだ頭の整理がついていなかったが、今いの一番にすべきタスクを優先させるべく彼女に提案してみると、彼女はあっさりと了承した。
「そうね、今は生活指導室に行きましょう」
当初の予定通り眠っている彼女を起こし、生活指導室に向かうというプランは順風満帆にことが運んでいるが、こうして今まで話すことも躊躇われた彼女と並んで歩くことができるなんてまるで夢みたいだと内心舞い上がっていたが顔には出ないようにと自分を戒めた。
そうこう歩いているうちにあっという間に「生活指導室」と書かれた木の札がぶら下がってる人気のまるで感じられない教室が視界に入り、なんとなく嫌悪感のようなものを覚え、歩いていた足はだんだんと重くなった。
「ここまで来ていうのも難だけど、やっぱり行かなきゃダメだよね?」
「なに、弱気になってるのよ。まさか、私を置いて帰るつもり?」
「ですよね、ハハッ......」
引きつった笑顔をみせ、観念した僕はゆっくりと泥棒のように忍び足で教室に入ると、腕を組んだ数学の教師が椅子にかけていた。
「遅かったな」
「す、すみません」
「お前もいうことがあるだろう、黒崎」
「申し訳ありません。遅れました」
「っていうか、お前一体何回目だ、ここに来るのは」
「えーと、9、いや10回目になりますね」
「なーにが、10回目になりますねっだ。お前全然反省してないだろ。今日という今日はみっちり指導してやるから覚悟しておくんだな」
先生は腕をまくり、椅子に腰を深くかけると机の上に両ひじをついた。




