10恋~幼い芽衣子と二人の少年~
芽衣子の過去編で、夏休みに起こった出来事です。
「芽衣子、夏休みどっか行こうぜ!」
「芽衣子、夏休み楽しみだね」
懐かしいあの声がする。
この声で何度救われたのか、芽衣子は昔を思い出す。
「早く帰って予定立てようぜ! な! 二人とも」
「そうだね、秦冶」
「そうだね! ......あの頃の私は二人がいたから今の私がいるんだよ......」
聞こえるか聞こえないかもわからないぐらいの声で呟く。
「どうしたの、何か言った? 芽衣子」
「ううん、何でもない」と誤魔化した後二人に聞こえないように「ありがとう」と続けた。
(あの頃から......私は......)
* * *
「夏休み......くだらない」
誰もいない大きな屋敷の中でボソッと本音をこぼす。
夏休みなんていらない、いつも幼い芽衣子は思っていた。
だってこんな広い屋敷の中に芽衣子だけ。
両親は芽衣子の気持ちなど知らない。
芽衣子はいつも独り。まだ学校に行って友達と一緒に学んだり、お喋りしたりする方が楽しい。
「芽衣子、ただいま」
「お母さん、お帰りなさい」
必死に笑顔で迎える。
やっぱり、両親に心配させたくない気持ちと心の中で気付いて欲しいという気持ちが交差する。
本当の気持ちがわからなくなっていった。
「芽衣子、明日私とお父さんは遅くなりますからね」
「わかりました」
なるべく笑顔で答える。
(私のワガママでお父さんやお母さんの仕事を邪魔してはいけない)
そう自分自身に言い聞かせていた。
~次の日~
「行ってくるわね」
「芽衣子、良い子でな」
両親は芽衣子に言うと行ってしまった。
(あぁ......また独り)
独りが怖いのではない、ただ誰もいない事が寂しい。
こつんとボールが足に当たる。
(誰のだろう?)
ボールを拾い上げ、玄関先に行き見渡す。
「キミが拾ってくれたの? ありがとう」
年は同じくらいの少年が受け取った。
「ねぇキミ一緒に遊ぼう」
「いいの? 私も」
「人数多い方が楽しいから」
少年は芽衣子を連れて空き地のある方向へ行く。
「そういえばキミ、名前は? 僕、晴武」
「芽衣子」
「芽衣子か、いい名前だね」
「ありがとう、晴武」
「そういえば芽衣子って小学校あの小学校なの?」
晴武はぽつんと建っている学校を指す。
「そうだよ」
「一緒だね」
空き地に着き、晴武と一緒に遊んでいた子たちとも仲良く出来た。この楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「日が暮れる、帰ろうか」
みんなは帰り始める。
「芽衣子、一緒に帰ろう?」
「いいけど、あの子と一緒に帰るんじゃないの?」
「うん、秦冶とも一緒だよ。僕の家は芽衣子の隣だし、それに秦冶の家も近くなんだよ。ね!」
向こうで待っている少年に聞くように言う。
秦冶といわれた少年はこちらに向かって来て言う。
「えっと、あの芽衣子......ったっけか? お前ん家ってでっけぇ家だろ?」
「そうだよ」
「晴武が言った通り芽衣子の近く。正確にいうと俺の家、晴武家の前」
一緒に帰ることになり、夕日が三人を照らす。
またね、と別れて屋敷に入る。
当然屋敷の中は誰もいない、しーんと静まり返っている。
だが、こんなにも楽しい時間で夏休みで明日が待ち遠しいなんて久しぶりだ。
(また、遊べるかな?)
この出来事が芽衣子の寂しさをなくしてくれた。
そして、二人と遊ぶようになり芽衣子の日課になっていた。
小、中と二人とは一緒の学校だった。
そして今に至る。
* * *
「あの頃から夏休みが好きになったんだよね」
「何の話?」
晴武が言う。
内緒、と右手の人差し指を口に当て長い髪を揺らし微笑む。
「教えてよ~、秦冶も気になるよね?」
「晴武のいう通り、気になるな」
「内緒だもん~」
三人は笑いあって一緒に帰る。
夕日が三人を照らす。
(あぁ......あの頃と同じだ)
三人の運命が動き始めるのは、まだ先のお話。




