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精霊の森の迷い子  作者: hachikun
25/28

しんか

 ちょっとグロい表現があります。ご注意ください。


 ゴブリンの集落に移動するまでの間に、発見した死体は多くなかった。

「意外に少ない?それにゴブリンの死体がないね?」

「それは、ほら」

 サユリが指差すと、何もないように見える地面に血痕があった。

「ゴブリンさんの遺体は誰かが運んでるんだと思う」

「誰かって?」

 誰が運んでいるというのだろう?

「あー、それはわかんない……あ、これも浄化するね」

 再び戦士らしき人間の遺体の前に来ると、同じように浄化をはじめた。

 そして、浄化されたらしい死体が地下に飲み込まれてしまったのを確認すると、ボソッと言った。

「死体がアンデッドってやつになるのには条件があるんだよ。よく知らないけど」

「条件?」

「うん。たとえば浄化するとその条件を満たせなくなって、あとは腐って分解されるままになるってわけ」

「ほう……腐敗って腐る事だよね?」

「うん、そう。分解も似たようなものだけど、両方の過程を通して死体は土に栄養に還って、そして森の滋養になる。魂が世界に溶けていくのと同じようなものなんだよ」

「なるほど」

 フムフムとレクターはうなずいた。

「じゃあ、動物や虫任せにしているものも、別のカタチでその『アンデッドになる条件』を外してるってこと?」

「うん、そう。

 むずかしい事はよくわからないけど、ある程度虫や動物たちが一気に食べ尽くしてしまうと、これもアンデッドにならないんだって。境界線がどこにあるのかよくわからないけどね」

「そうなのか……」

 初耳の情報ばかりだったが、とりあえずレクターはその情報を頭に入れた。

「なるほどね。だから、そうなりにくい大きな遺体とかを狙って浄化してるっわけなんだね」

「うん、そう」

 再び歩き出した。

「レクターも教えてくれる?」

「え?」

「さっき言ってた事」

「ああ。サユリのせいじゃないって話?」

「うん」

「覇権争いは元々ある話なんだよ。

 そして、精霊をとらえて戦争に使う話も以前からある。

 どうして今までやらなかったかというと、それは単に時期的な問題だったりリスクが大きかったりだ。

 で、それが顕在化(・・・)するきっかけになったのがたぶん、サユリの持っていたペンダントであり、それを北の神殿にいたお姫様が受け取ったからなんだけど」

 そこまでいうと、レクターは一度言葉を切った。

「あくまでそれは顕在化(・・・)なんだよ。

 今まで何もなかったわけじゃない。むしろ裏側ではガンガン進行していたはずさ。たとえば」

「たとえば?」

「たしかレティシア嬢だっけ。

 あのねサユリ、一国の王女が王女としての立場を全うする事なく、田舎の神殿で巫女をやっていたっていうのはどういう意味があると思う?」

「えっと……本人が巫女をしたかったから?」

 少し考え込むサユリに、レクターもうなずいた。

「うん、確かにそれもあるかもしれないね。だけど基本的には違うと思う」

「そうなの?」

「ああ。

 おそらくは何らかの政争の結果で、そのお姫様を中央から隔離したい誰かが、わざわざ神殿に送り込んでいたんだと思うよ。

 神殿は教会の施設ではあるけど、ちょっと複雑な事情があってね。現場の神官や巫女は世俗に関わらない事になっているからね」

「へぇ」

「そして、その状況が変わったわけだ。

 たぶんだけど……そのお姫様以外の王族はほとんど残ってないか、王冠をかぶせるにはあまりにも小さすぎるかのどちらかだと思うよ」

「小さいとダメなの?お城なら補佐する人だっているんでしょう?」

「普通はね」

「?」

「サユリが出会ったお年寄りの騎士と、あのペンダントの事を考えてごらんよ。

 どう考えても、まっとうな王位継承が行われてないって事だよね?

 だからこそ、そのおじいさんは、まっとうな王女様である北のお姫様にペンダントを届けようとした。違うの?」

「あ、うん。確かにそうかも」

「サユリ、足が止まってる」

「うん」

 ふたりは止まった足をまた進めた。

「話をもどすけどさ。

 精霊は確かに強力なエネルギーになるけど、何か危うい力、危険な力って事は人間たちも薄々気づいてるのさ。

 わかっているからこそ、平時にはそんなもの求めない。

 それでもそれを求めるという事はつまり、リスクをしょいこんでもリターンを得たいって事。つまり、かけるだけの価値があるという事なんだろうね」

「……そうなんだ」

「うん。さっきの映像の内容からしても、たぶん間違いないと思う」

 ふうっとレクターはためいきをついた。

 

 

「サリ!無事だったか!」

「え……だれ?」

 ゴブリンの集落に到着したサユリだったが、見慣れないゴブリンロードらしきものに迎えられ、困惑の顔を浮かべた。

 そうしたらゴブリンロードの一匹が、なぜかサユリの下半身の方を指差した。

「それ」

「え?」

「それ、わしが作った」

「え?あ、じゃあもしかして」

「そう。わしがサリーにあげた」

「うそ、進化したの?これもらってから何日もたってないのに!」

 なんと。

 ゴブリンロードは、サユリにかぼちゃぱんつ(ドロワーズ)をくれたゴブリンだったらしい。

 やはり進化した事で、ゴブリンロードは会話が流暢になるようだ。まだ少したどたどしさを残しているが、それでも普通にサユリと会話をはじめた。

「わしら生き残りは全員進化したよ。あの人間どもと戦うことで」

「そうだったんだ……どのくらい生き残ったの?」

「一割もおらんな」

 ゴブリンロードは悲しげに目をふせた。

「これから我らは繁殖にとりかかる。でも数が足りないから、しばらくは動けない」

「じゃあ、どうするの?」

「中央の集落は被害がないが、そっちに派遣を頼んだ。この森にいる妊娠してないメスは全て、我らの子を宿す事になる」

「急繁殖だ」

 ぼそっとレクターがつぶやいた。

「きゅうはんしょく?」

「災害や人間の襲撃で数が減りすぎた時、一時的に普段の何倍って速さで増え広がる能力のことだよ。一見地味だけど、種族繁栄って事を考えると凄い能力なんだこれが」

「そうなんだ……」

 感心したようにサユリがうなずいた。

「小鬼族はよく侮られるけど、人型で急繁殖できるのは小鬼族だけって言われてるんだ。

 それに、そうして苦しい条件でも増える事ができるからこそ、森の管理の一翼を担っているともいえるんだよね」

「すごい!」

 微笑むサユリに、ゴブリンロードも大きくうなずいた。

「だけど、一割しか残ってないって事は当座の戦力はどうするの?今攻められたら危険だよね?」

「そっちはまた別の力が動いている」

 レクターの言葉に、ゴブリンロードが反応した。

「詳しく知りたいのなら、樹精に尋ねるのがよかろう」

「じゅせい?」

「樹精に尋ねる?どうやって?」

 ここは中央の森、もしくは樹精の森と呼ばれている。だから確かに、樹精と呼ばれるものは存在する。

 だけど。

「樹精って中央の大木だよね。確かサユリが寝床にしてる」

「うん。とっても寝心地いいからね」

「それでサユリ、樹精と話した事ってある?」

「へ?樹精と?」

「うん」

 サユリは首をかしげて、しばらく考え込んで……そして「うーん」とうなった。

「あるような、ないような……」

「なにそれ?」

「普通にお話した記憶はないよ、ないんだけど……」

 そういうと、サユリはしばらく考え込んで。

「でも、お話した事がないかっていうと……よくわかんない。なんかこう、ここにひっかかってる気がする」

 そういうと、自分の胸に手をあてた。

 ふむむ、と少し考えていたレクターだったが、

「わかった。じゃあ、樹精のところに案内してくれる?」

「え?なんで?」

「確認してみたい事があるからだよ」

「確認?」

「ああ」

 サユリの不思議そうな顔に、レクターは軽くうなずいて見せた。


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