【06】 住民票のおねだりと返送された申告書
丹沢「はい、結構です」
爽香「じゃあ帰っていい?」
丹沢「住民票などの発行が無ければ、どうぞ」
爽香「1枚くらいサービスでくれないの?」
丹沢「……住民票のサービスを要求されたのは初めてです」
爽香「罰金取られるかもしれないのよ!? 1枚いくらよ」
丹沢「200円です」
爽香「じゃあサービスしなさいよ!」
丹沢「公務員には憲法上の『全体の奉仕者』義務があるんです。あなただけに特別サービスをしたら憲法違反になります」
爽香「へえー、憲法ね。まあいいわ」
丹沢「それでは、お気を付けてお帰りください」
爽香「言われなくても帰るわよ!」
爽香は手を高く掲げ、
指先だけをひらひらと振った。
それが彼女独特の
別れの合図だった。
◇
1週間後の金曜日。
住民課に、国民健康保険課の
森口歩み(26)がやってきた。
歩み「丹沢さん、また実態調査お願いできますか?」
丹沢「また保険税の納付通知書が戻ってきたのか? まったく、住民票だけ置いて税金逃れする奴が多くて困るよ」
歩み「いえ、今回は『申告書』の方なんです」
歩みが差し出したのは、
郵便局の「あて所に尋ねあたりません」の
赤スタンプが押された返送封筒だった。
丹沢「どれどれ……」
手にとった丹沢の動きが止まった。
丹沢「……えっ!?」
歩み「どうかしました?」
丹沢(宛名……速水爽香……!?)
歩み「知ってる人ですか?」
丹沢「あ、いや……知ってるというか、俺が転入届を受付した相手だから、ちょっと驚いただけだ」
歩み「ちょっとですか? すごく狼狽しているように見えますけど……」
丹沢「受任者としての責任を感じてだな……」
歩み「丹沢さんのせいじゃないですよ。窓口で本当に住むかどうかまで見抜けませんし」
丹沢「森口さんは優しいなぁ……ありがとう。最優先で現地調査してくるよ」
歩み「助かります。いつも頼りにしてますね」
その時だった。




