【10】 鬼課長の怒号と理不尽な追究
トイレから戻ってきた戸部が、
君本早苗に話しかける。
戸部「丹沢さんと年金課長って、なんであんなに仲が良いんだ?」
早苗「あ、井手課長ですか? 昔、教会の無料英会話教室で一緒だったらしいですよ。丹沢さんは受験のため、課長は海外旅行のため」
戸部「へえ、歳の差があるのに」
早苗「二人とも英語に全くついていけなくて、2ヶ月で一緒に挫折した仲だそうです」
戸部「落ちこぼれ同盟か。変な縁だな」
◇
金曜日の朝一番。
住民課長・鬼塚厳司(55)の
怒号がフロアに響き渡った。
鬼塚「またお前か!!!」
『バン!!』とデスクを叩く
凄まじい音が響き、
職員全員が息をのんだ。
鬼塚「いいか丹沢! 今度も虚偽の届出だったら、ただじゃ済まさんぞ! 職権消除だけじゃなく、お前はクビだ! 脅しじゃないぞ!」
丹沢「……速水さんが住んでいないと決まったわけではありません」
鬼塚「国保の茂森課長から聞いたぞ! 郵便物が届かないそうじゃないか! 住んでないから戻ってきたんだろうが!」
丹沢「なぜ戻ったのかは、現地調査をしてみないとわかりません」
鬼塚「お前、また若い女だからって適当に受付して見逃したんじゃないだろうな!?」
丹沢「言いがかりです!」
鬼塚「なんだその口態は! 上司に逆らうのか!」
丹沢「……」
丹沢は黙って横を向いた。
鬼塚「黙秘か! バカ者め!」
後方のデスクで、
若石と春菜がひそひそと囁き合う。
若石「課長には何言っても無駄ですね……」
春菜「黙ってるのが正解よ」
鬼塚「だいたい、転入届を2ヶ月も遅れて出してくるような奴だぞ!? 自分のアパート名も言えない、旅が多いとか言ってる怪しい女を、なんでそのまま通すんだ!」
仮ナンバー担当の高品雄介が
余計なチクリを入れたらしい。
丹沢「怪しいとは思いませんでした」
鬼塚「わざと見逃したんだろ!泥を塗りやがって!」
また『ドン!』と机が鳴る。




