都平阿坂3
急いた気持ちでリフトに乗る。
リフトのスタッフにも確認する。
自分と色違いだけどデザインが同じウエアを着た女の子が一人でリフトに乗っていなかったかと。
さすがにわからないようだった。
僕のスキーウエアは連理と色違いのおそろいのものにさせられた。母の趣味かつ、見つけやすいようにだ。
普段から好奇心のままあっちこっち行ってしまう連理を心配した親ごごろであり、はぐれた時は僕と色違いのウエアを着た女の子がいませんでしたか?と聞けばいい。
そこまで考えて、ふと親ごころと思ってしまった自分に失笑した。
僕は……僕は…誰なんだろうね。
両親のことを考えると気持ちが沈む。悪いことをしていることはわかっていた。
しかし今は感傷に浸っている場合ではない。
とにかく連理を探さなくては。
このスキー場は比較的小さなスキー場でゴンドラではなくリフトで頂上まで上がれる。
ゴンドラとは違いむき出しのリフトは風がもろに当たり想定以上に冷える。
風が吹いている。あまりよくない傾向だな…と一人ごこち、しっかりとゴーグルをはめる。
天候が悪化する前に、大事になる前に探さなくてはいけない。
降り口のリフトの管理人にも聞いたがダメだった。
頂上付近にある真白さんがパフェを食べたというロッジに聞いてもダメだった。
僕と同じ顔をした色違いのウエアを着た女の子がここに来ませんでしたか?はぐれてしまったんです。と言っても、真白さんと来たことは覚えていてもそれ以外の目撃情報はなかった。
むしろあれだけ客がいたのに連理の顔を覚えていたことに驚いた。
お姉さんと同じ顔なので驚きましたと言われた。
姉ではなく兄ですと訂正はしておいた。
途中で迷っているのかもと思い、ゆっくりしたまで滑っ手当たりを確認したが成果もなく。もう一度リフトに乗ることになった。
ゆっくりと上がるリフトとは反比例し、気持ちだけが急いていく。
真白さんとの連絡は取れている。
と言っても反応はほとんどできていない。
しかし彼女から一方的に連絡が来る。それがありがたい。つまりそれは連理が存在しているということだ。
連理が存在ごと消えてしまえばこの連絡も来ないはずだ。
おかしなことに巻き込まれて存在ごと消えてしまったわけではないという証左だ。
おかしなこととは何だろう。
わからない。そもそも彼らに何かをするような力は残っているのだろうか?
結城先生を時折怖がらせているいたずらがせいぜいだと思っていた。
そうこうしてもうすぐ1時間近くがが立とうとしていた。
連理と真白さんがはぐれてもうすぐ2時間近くになる。さすがにあたりが暗くなり始めてきた。
スマホがひっきりなしに震える。真白さんももう待てないようだった。
捜索隊に…という連絡が来ている。
捜索隊…できれば呼びたくなかった。しかし仕方がないというのもわかる。どうするべきか考えあぐね居ていると、声をかけられた。
かわいらしいというか幼い声だった。
「お兄ちゃん」
小さな子供だ。こんな頂上付近にどうして…?親に連れられてきたのだろうか。
「お兄ちゃん。人を探しているの?さっき話してたの聞いちゃった。」
「……うん。そうだよ。見なかったかな。僕と似たこれのピンクの服を着た子なんだけど」
半ば条件反射のように僕はその子供に問いかけた。
重要な情報なんて何もないとそう思った。
「ぼくみたよ」
ひゅっと自分ののどから音がした。
希望を見つけたという気持ちと、なんとも形容しがたい名状しがたい何かが胃からせりあがっているような気持になる。
「お兄ちゃんとお顔がそっくりな女の子だよね?」
にこにことその子供は続ける。
僕の様子に気づいていないのか。いや子供だから気づけていないのか。
「……そうだよ」
心臓が耳元でどくどくと音を鳴らしているようだった。
普通の子に見える。
普通のスキーウエア。
普通の赤いボンボンのついた毛糸の帽子
赤い手袋。
スキー靴。
何一つおかしなところはないように見える。何も不自然なところは見当たらないどこにでもいそうな子供に見える。
すっと子供が腕を動かす。その様子に多少警戒してしまう自分がいた。
「あっちに行ったよ。あの木の間のほう。ふらふらっといっちゃったの。」
子供の指さすほうには木の間に人が入れる程度の隙間が見える。
いわゆるよくないマナーのスキーヤーが言うコースの外だ。
ゆっくりと息を吸い込みふぅーとはく。
子供のほうを振り返ると、意外なことに心配そうな顔をしていた。
「いかないの?」
心配そうな声だった。
不思議な子供であった。信じられる様子が何一つなかった。
むしろどちらかといえば怪しいといってもいいくらいだ。
でも、その顔に悪意がないことが見えた。だから信じることにした。
「いや。いくよ。教えてくれてありがとう。
もしほかに僕たちを探しに来た人がいたらおんなじことを教えてほしい。
無理だったらいいから。」
僕がそういうと、彼は嬉しそうに大きくうなずいた。
「お兄ちゃん気を付けてね」
もちろんだとも。妹を必ず連れて帰ると改めて誓った。
コースの外は本来立ち入り禁止。ばれたら僕だって怒られるし親も呼び出されるようなコースだ。そこに踏み入れる。
確かに真新しいスキー板の跡がある。近々に、少なくとも今日中に誰かがこの道に入り込んだのは確かだろう
しかし、スキー場のコース外に出るなんて…
退学。停学。ちらりと頭にいやな文字がよぎっていった。
どうでもいいか。連理を失う事よりひどいことはない。
コースの外に入り込んですぐに日が本格的に暮れてきて、あたりは月明りしか見えなくなった。
もしかしたら周りに気があるせいでより一層暗く見えるていのかもしれない。
スキー跡を見失わないように僕はその横を滑った。上を走らなかったのは変える道が分からなくなるのが怖かったからか、
痕跡を消したくなかったのか。
コースの外に入ってから、風はやんだようだったが、今度は雪がちらつき始めた。
本格的にやばいと思った。
足跡が消えてしまう。
連理がどこに行ったのかわからなくなってしまう。
そして何より、帰り道が分からなくなってしまう。
ふと、ずっと定期的に震えていたスマホがずっとおとなしいことに気づいた。
真白さんからの連絡がなくなったのか。
それともここが圏外なのか。
おかしなところに迷い込んでしまったのか。
でもなぜだか僕はここで僕はやっと安堵した。
近づいているという予感がした。
やはりここにもあったのだとそういう確信があった。
でも胃にまとわりついた不快感はどんどん増すばかりだった。
何かを選ぶとき。あの夏休みの終わりにオキクルミと対したとき、選択を迫られる。そういった類の胃の不信感だった。
スキーを滑るシューシューという音だけが僕を導いてくれる。
どのくらい進んだろうかそこまで遠くはなかったと思う。
急に視界が開けだ。そこにはヒト型のシルエットがあり、その前に人影が見えた。
だから迷わず叫んだ。
「連理!!!!!」
彼女は大きな岩の前に立っていた。
ぼんやりと岩を見上げている。




