都平阿坂2
目を覚ますとすでに夕方と言っていい時間に差し掛かろうとしていた。
久しぶりにぐっすりと寝た気がする。
ポヤポヤとしながら周りを見渡す。見慣れない景色。
そうだここはスキー場のロッジだ。
ロッジのスタッフが起きた僕を見てお茶を持ってきてくれた。
疲れていたみたいだからおこさないでおいてくれたとのことだった。ありがたい。
動くと背中から何かが落ちた。ひざ掛けの用だ。
誰か親切な人が僕にひざ掛けをかけてくれていたらしい。
ひざ掛けをたたんで返し、
気になったことをスタッフの人に尋ねた。
寝ている間に妹たちが来ませんでしたか?と。しかしスタッフさんは見てないという。
忙しいから見落としたとか、寝てる僕に遠慮したのかなと思ったけれど、
昼から分かれてもう3~4時間くらいたっている。
どこかで休憩しているのだろうか。
ふと、眠りにつく前まで抱えていた不安がじんわりとにじり寄ってきた。
連絡をしよう。そう思ってスマホを立ち上げると、すでに何件か真代さんから連絡が来ていた。
それを確認する前にどすどすとスキー靴の音を響かせて誰かがロッジに入ってきた。
「阿坂君!」
息を切らして駆け込んできたのは真代さんだった。
「阿坂君!連理ちゃんが帰ってきていませんか!?」
ぜいぜいと途切れがちな声で彼女が叫んだ。おとなしい彼女にしては珍しい声量だ。
汗もかいていてひどく焦った様子だった。
しかしそんなことを言っている場合ではない。
「来ていない。はぐれたの?」
僕は務めて冷静を保って聞いた。
慌てなくてはいけないのに心の中にぽつりと言葉が落ちてきた。
そうか予感はこれか。
頭の中ではいろいろな最悪の想像が巡っているのに何一つ形を成さない。
考えがまとまらない。
「はい。リフトで頂上までいって……一番上まで上がって……上のロッジでパフェを食べて…………
それで会計が終わった後、私がトイレに行って戻ってきたらもういなくて……」
とぎれとぎれに彼女が説明する。
混乱してまとまらない話。泣きそうな。いやもう泣きだしていた。
「スキー板もストックもなくて。ほかの人に聞いても見てないって…」
そうか。雲のように消えていなくなったと。
僕は連理に電話をかけてみるが通じない。コール音がしない。
ふーっと息を吐く。
はっきりとわかった。
絶対にはぐれたわけじゃない。確信があった。
「真代さん。落ち着いて。ここで休んで。僕が見てくる。第4リフトで頂上まで行ったんだね。見てくるから。
割と好奇心が強い子だからちょっと外れたのかもしれない。ごめんね。
後で、心配をかけてはいけないと二人で叱ろう。
とりあえず僕が探してくる。それで見つからなかったら捜索願を出そう。とりあえず落ち着いて。」
落ち着いてもらおうと真白さんの肩をポンポンとたたいた。
その手がぶるぶると震えていたことに彼女は気づいているだろうか。
彼女は涙ながらにうなずいた。
スタッフの人が心配そうにお茶を持ってきてくれている。
僕は努めて何でもないような顔をして脱いでいたスキーウエアを着て外に出る準備をした。
心配そうなスタッフに捜索願を今すぐ出さなくていいかを聞かれたが、
まだはぐれて1時間もたっていないからと言って断った。
捜索隊など意味がない。逆に見つかるものも見つからなくなってしまう。
絶対に違う。探して見つかるはずはない。
あの子が真代さんに心配をかけてまで消える必要なんてない。
ではなんだというのだ。
そうとも。
忘れていた。
現地信仰では山に神が宿るとして山に信仰を集めていた。
そしてそこにある巨石をご神体とした。
連理だってそうだった。あの、クルミも、元々もそうだった。
山にあった御神体がある日、学園まで下りてきていた。
スキー場だって山だ。であるならこの山にも信仰があったっておかしくはない。。
そこに人の姿になった連理が、自身と同じように信仰の対象であったナニかが来たらどうなる。
わからない。
そもそもこの山に本当にそんなものがあるのか。
多くは明治の時代に爆破されていると習ったではないか。
クルミのように信仰が残っていてクルミのように意識があったら?
そうしたら……自分も連理のようになりたいと思うのだろうか。
それとも人の姿を得た連理に嫌悪感を抱くのだろうか。
わからない。
わからないからこそ早く見つけなくてはいけない。
ぼくは……




