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都平連理3

「連理!!!!」

阿坂の呼ぶ声で私の意識は浮上した。

寝起きのようなぼんやりとした意識で阿坂を見る。


「きこえてる」

とりあえずぼんやりとした意識の中で最低限の返事はした。それが限界だったともいう。

自分の声なのに自分の声ではない気がした。

それ以上の反応を見せない私にしびれを切らしたのか、スキーを脱ぎ捨てた阿坂がどかどかと近づいてきた。

許してほしい私もどうして用もないのだ。


無理やり帽子とゴーグルを外される。というか奪い取られた。

風がほほをなでた。冷たいとは感じなかった。

ふと、阿坂の顔が見たくなった。だから私も阿坂のゴーグルと帽子を後ろにずらして落とした。

息を切らせて妹を探しに来た同じ顔(兄の顔)がそこにはあった。

心配と安堵と、困惑とが入り混じったような顔だった。

うれしいような。苦しいような。苛立たしいような。何も感じないような。

私は自分が分からなくてじっと阿坂を見つめていた。


「ねぇ阿坂。これなんだと思う?」

少しまともに動き始めた頭で、阿坂に尋ねた。

特に意図はなかった。地元だし知っているかもと思って聞いただけだった。

どういうモノがいたのかそういうことを知っていれば教えてほしい。と思って聞いただけだった。

ただ、阿坂の反応は私の想定していたものではなかった。

「ごめん。わからない。確かにもともとここに住んでいた人達にとってここは特別な場所だったのかもしれないけど……この山にそういう信仰があったとか知らないんだ。

ごめん本当に知らないんだ」

「知っていたなら近づけなかった。」

絞り出すような声だった。

苦悩に満ちた顔をしていた。まるであの時私と対峙したときのような顔だった。それでいてまっすぐ私を見ている。

そこでようやく私は阿坂が思い悩んでいる原因を理解した。

あぁ。彼はきっとこの世すべての不幸が自分のせいだと思っているのか。

私が消えていくことを見過ごせずに手助けしたようにほかの人のことも見捨てられないのか……

ここにいた何かに思いを寄せているのか。

「そうよね…あなたはそういう人よね」

そうだった。そうだった……そういう人間だった。


馬鹿だなとおもう。

私はこんなにも毎日が楽しいのにね。それを見ていないのだろうか。

ふっと視線を逸らす。

「……呼ばれた気がしたの」

ふと、自分の浅ましさを、阿坂が悩んでいるのは自分のせいだけではないことに不満を覚えたという気まずさをごまかすようにここに来た経緯を話すことにした。

そう。呼ばれた気がした。

「でももうわからないの」

何も感じることができない。ここにはいないのだろうか?私のような存在は。

それとも感じられ邸内だけなのだろうか。

ここにはもともと何がいて、何がされていたのだろうか。


すべは過ぎ去った過去にあり、雪の下だ。

私にも、私のもとになったモノにもあったのだろうか。

人々とともにあった時代が…信仰を寄せられていた時代が。

口笛のような音が聞こえる。そっとその音に耳を寄せようとした。

「……真白さんが心配している。帰ろう。」

普段聞いたことのないような低い声が笛の音をかき消した。阿坂の声だ。袖をグイっとつかまれた。

「かえる?」

どこにだろう。私はどこに還るというのだろうか。

「帰ろう。」

阿坂はしっかりと私の目を見て告げる。

阿阪だけは私の目を見てもなにも起こらない。

阿阪だけが……

「楽しことをしよう。これまでも。これからも。たくさん楽しいことをしよう。

来年は修学旅行もある。真白さんと回るんだろ。君が知らない土地に行くんだ。それはきっと君の好奇心を満たしてくれる。世界を広げてくれるよ。」

そう。楽しいことが待っている。春に咲くという桜が見たい。

夏には海に行きたい。

修学旅行。京都に行くと聞いた。きれいな土地だと聞いた。

ぐるぐるといろんな景色が頭を回っていく。

想像もつかないところに未来と阿坂が連れて行ってくれる。

そうだった。私は自分で決めたのだった。

自分でこちらをつかみ取ると決めたのだ。

そうとも。

「私はそれのために自分で選んだんだった。」

笛の音は聞こえない。

「帰りましょう」

そういって見つめた浅香の瞳にはしっかりと私が映っていた。


這う這うの体でロッジまで戻った。先に阿坂が電話していたとはいえかなりひどい状況ではあった。

未来はべしょべしょに泣いていた。

両親が来ていた。当然心配をかけていた。

捜索隊が組まれていた。気まずい限りだった。

ひどく消耗した私にはもう謝るしかできなかった。

一応不満はある。子供と話をしていたらいつの間にかあそこにいただけで、

わざと危険な林間コースに入ったわけでも、

わざと行方不明になったわけでもない。

だからと言って素直に言って信じてもらえるとも思えず、言い淀んでいたが、

それすら許されなかった。しぶしぶ頭おかしいと思われない程度にごまかしをいれて、

「ちっちゃい子供にこっちに面白いものがあるよと言われて…ちょっとだけと思って入ったら道に迷ってしまったの…」

と告げた。

すると阿坂までも、

「もしかして赤い毛糸で編んだボンボンがついている帽子をかぶってた?赤い手袋の。」

と言い始めた。

お互いに子供の特徴を照らし合わせたら、どうやら同じ子にあったようだった。

捜索隊に入ってくれた近所のおじさん曰く、

私にいたずらして帰ってこなくなって私を探しに来た阿坂に怒られないように誘導したのかもということだった。

でももう暗いため探して注意もできないから。と、この件はおしまいになった。

私はしっかりと、知らない大人だけではなく、知らない子供にもついて行ってはいけないと怒られた。

少し納得がいかない。

でも連理が「よかった」だけを繰り返す小鳥になってしまったので、心配をかけたことも確かだし、納得することにした。


そのあとは、未来が家に帰れる状態じゃなかったので家に泊めることにし、

お父さんの運転で家に帰り、

お母さんが作ったご飯を食べ、

お風呂に入って寝ることになった。

阿坂は疲れ果てていたのか、帰ってきてからずっと無言ですぐに部屋に戻って寝てしまった。

未来は私の部屋に泊まってもらうことにして、寝巻きとか私のを着てもらいわちゃわちゃしながら一緒に寝た。

こういうことが初めてだったのでちょっと騒いでお母さんに寝なさいと注意されたけど。

ちょっと不謹慎だけど楽しかった。



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