都平連理4
疲れ果てていたのか深い眠りについたようだった。
明け方夢をみたきがする。
夢の中では雪が降っていた。
どうやら森の中のようだった。
そこにはフクロウが1羽木に留まっていた。
白地に茶色のアクセントが入ったきれいなフクロウだ。
きれいだなと思った。雄大だなと思った。
ほっほう
フクロウが鳴く。
じっとこちらを、私を見ている。
ふと…なぜだか国語の課題を思い出した。最悪の課題を出されたあの授業だ。
虎となった彼は、その原因を臆病な自尊心、尊大な自尊心、そして怠惰であったと思い描いた。
昔の私はそうであったように思う。真実を知りたいと思いながらもそれを知ることを避け、きづつくことを恐れた、臆病な自尊心。人ではなく神に属するものであろうという尊大な自尊心。そしてそれらを知ることをすべて自分に貢物を渡す生徒に押し付けた怠惰さ。
私も虎になるのだろうか。
でも私は……
ほっほう
フクロウが鳴く。
避けることもなくじっと両の瞳が私を見ている。
私は……
夜が明けた。
私はすっきりして目が覚めたけど、阿坂はそうではなかったようだった。
不器用だなと少しあきれる心地だった。
未来を家まで送り、帰ってくるとすぐに阿坂はまた部屋に戻ってしまった。
もしかしたら未来の家庭事情を知ったからかもしれない。
昨日の一件で気づいてしまったからだ。阿坂はきっと登場人物の不幸が自分のせいだと思っているのだろう。
別に未来は不幸ではない。
ただ、さっきあった時に母子家庭だと紹介を受けただけだ。
離婚して母方の地元に引っ越してくるために今年の5月に引っ越してきたらしい。
それを気に病んでいるのかもしれない。
自分で考えておいて、随分失礼だなと思った。
繰り返すが、別に未来は不幸ではないし、幸せそうだし、
お金に困っているとかそういうことは言ってなかった。
むしろ未来のお母さんの実家は裕福らしい。スマホケースが存外お高いものでびっくりしたら、祖父母がお小遣いをいっぱいくれるので…と言われてしまったくらいだ。
そもそも未来は私と出会ってからずっといろんなことを話してくれたけど、父親についての愚痴は何一つ言わなかった。
母子家庭になってつらいということも、父親と離れてつらいという話も聞かなかった。
むしろ、周囲の反応に辟易しているようなことを言っていた。
「人は周りに不幸だねって言われると不幸になるんですよ。私は全然不幸じゃないのに」
いつぞやか未来はそんなことを言っていた。
その通りだと思う。
だからそんな未来を不幸だなと思うのはそれはもう傲慢の類であると思う。
夕食の時間になっても阿坂は部屋から出てこなかった。
母に頼まれて阿坂の部屋のドアをゆっくりと開ける。
薄暗い部屋で阿坂が寝ていた。
うなされている様子はなかった。
安心した自分にちょっと驚いた。
じぃっと自分とおんなじ顔を見つめる。
どんな夢を見ているのだろう。
でも、長くは続かなかった。
「……どうしたの?こんな真っ暗な中」
見つめすぎたのか阿坂が起きてしまった。
しぱしぱと瞬きをしている。
私はじっと阿坂を見つめ続けた。
もしかしたら……もしかしたら今がチャンスなのかもしれない。
でもなかなか切り出せなかった。
しびれを切らしたのか阿坂がベットから起き上がろうとした。
でも私はそれを制した。今言うしかないのだ。
私は私が選んだ責任を取らないといけない。
「……がっこうの…」
心の準備ができていないせいか唐突なことを言ってしまった。
でも正しいことだ。
私が阿坂に対して歩み寄ろうと思ったきっかけ。
「学校の課題で…国語の。
山月記ってあるでしょ。山月記。あれの続きを書けって言われたの。」
言葉を切る。衝撃的な課題であった。すでに完結した物語の続きを書くだなんて。
「いろんなことが頭に浮かんだの。
幸せにしてあげようと思ったの。自分ならどんなハッピーエンドを描けるだろうって。
そう…たとえば悔い改めて許されて人間に戻ったよって。
でも……書けなかった。」
そう書けなかった。
「……一文字も書けなかった。怖くなったの。」
手が動かなかった。原稿用紙を前にして何一つ文字が書けなかった。
「もし自分が書いたことが本当になったらどうしようって。その人の運命を私が決めてしまっていいのかって。
登場人物がもし自分の運命が決まっているとわかったら決めた人をどう思うかって思ったら……書けなかった。
そんなことあるはずないのに。」
あるはずはない。わかっていた。わかっていたけど阿坂がいた。
自分が原作者だといい、私たちの物語を捻じ曲げて逸脱させた阿坂がいた。
「うん……」
阿坂がうなずく。
顔が見えない。
むかついた。
だから阿坂の顔をグイっと無理やり持ち上げて目が合うようにした。
じっと睨みつける。
「そう……だから。」
「阿坂への。あなたが私に強いた運命の残酷さについて、あなたに対する怒りを保留にすることにしたの。」
あなたが物語を書いたということで私がひどい運命にあったといことを、
あなたが意図したことではないと認めましょう。
「許すことはない。でも保留にしてあげる。」
許せはしないけどちょっとだけ横においてあげることにする。
そのくらいの譲歩はしてあげる。
「楽しむことにしたの。この人のみの人生を。」
楽しいことが続く限りこの怒りを、痛みを思い出さないで上げる。
だからこそ。
「だからあなたもあなたの罪悪感を保留にしなさい。私を楽しませることに全力を注ぎなさい。」
「責任を取るべきでしょう。楽しいことがたくさんあるからと私をこんな風にしたのだから。」
じっと阿坂の目を見つめる。彼は驚いていた。
私が譲歩したことに驚いているのか、
それとも私が…励まそうとしていることなのか…
これが私ができる最大限だ。それで納得してもらえないなら困る。
「……そうだね。まったくもって君の言うとおりだ。」
そう来なくてはいけない。
せっかく私が楽しい思いをしているのに横で辛気臭い顔をされていてはたまらない。
私は承諾したというのにまだ浮かない顔をしている阿坂に軽く頭突きをした。
軽いつもりだったのだがゴチンと割といい音がした。
それなりにいたかったらしく阿坂が目を白黒させているのが面白く。
私は声を出して笑った。
お付き合いいただきありがとうございました。これにて終了です。




