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都平連理1

ふと、懐かしい誰かに呼ばれた気がした。


だからなのか思い出してしまった。

私という存在のこと。

私は気づいたときにはもうあの中庭に閉ざされた岩の上にいた。

周りには私のようなものがそれなりにいたように思う。

私が現れたことを喜んでくれていたように思うけど、

意思の疎通はできなかった。

そして周りには人間の子供がたくさんいた。

彼らには私が見えないようだった。

何となく彼らと自分が違うものであることはわかっていた。

会話もできないしそもそも認知されない。

別にどうでもよかった。こちらから話しかけることが自分の役割でないことだけはわかっていた。

彼らは私に祈りをささげるものなのだから。


私は漫然と日々を過ごしていた。

時間という認識はなかった。

目的はない。

やりたいことはわからない。

そもそも動けない。


そう。私に元々ここまで考えるという機能はなかった。

変わったのは、あの日。

ある日のことだった

どのくらい前のことかもわからない。

私は話しかけられたのだ。


人間の子供であった。

たしか『こんなところで何をしているの』みたいな内容だったと思う。

女の子で長い髪をしていた。

疑うことの知らない純朴な少女であった。

こちらに深く入り込まず、それでいて気配りのできる子であった。

それでいてよくしゃべる子だった。

天気のことから家のことまでとにかくよくしゃべる子ではあった。

私は彼女からいろんなことを学んだように思う。


でも、私と彼女との時間は短い間だった。

当時なぜ彼女が私のもとを去ってしまったのかわからなかった。

今思えば3年。高校生活の間だけ私と共にいたのだろう。

卒業後彼女が私に会いに来ることはなかった。


彼女は私が人間ではないことに気づいていた。

当時の私は制服ではなく白い着物を着ていたから当然かもしれない。


それから何人もの人間と言葉を交わした。

最後になる未来に、阿坂にあうまでかなりの時間がたったのだと思う。

ただ人と会うたびに自分が薄れていっているような気はしていた。

もともと何のためにあるかわからない私であったが、

それでもそんな私がより薄らいでいくのは嫌だった。


私と会話ができる人間の中には、私が人間ではないと気づくものも多く、

私の正体を解き明かそうとするものも多くいた。

結局、皆うまくはいかなかった。

私の満足のいく答えを導けなかったのだ。


そう、みな私を神だといった。

今なら判で笑ってしまうだろう。

こんなにも何にもできないのに?

望みをかなえることもできない。

天気を変えることもできない。

そもそも自分から何かをすることすらできないのに。

そんな私が神?笑う気力も起きない。


そして人間たちは自分の作り上げた真実をわたしに伝えると、

さぞ私が素晴らしいものであるかを語り、夢を見るような目で私を見るのだった。

でもそれに対しても私は何もできなかった。

いや、唯一できるようになったことは、そいつらのせいで私はいつからかかわいそうな女性を演じるのがうまくなってしまった。

そう。女性を装うことにしたのだ。

初めて会話をした彼女の姿を模した。

そうしないと気味悪がられたり大騒ぎになったりするからだ。

彼女を装うようになってから、そういったことは激減した。

別に気味悪がられるのが嫌なのではなく、大事になってあの岩が撤去されること嫌だった。

何となくぼんやりと、あの岩に何かあると自分も消えてしまうことがわかっていた。

そうでなくても私の周りにいる何かたちは徐々に数を減らしていっていた。

私もそうやって消えるのだろうとわかっていた。ただただむなしかった。ただただ寂しかった。


そういえば。一人学校を卒業した後戻ってきた男がいた。

教師として赴任してきたという。でもそいつももう消えてしまっていた。


結局、自分の正体が分かったのは阿坂と対峙したときだった。

結局いつもの生徒の類だと思ったのが手痛い失敗だった。

自分にあれほどまでに強い感情があると気づく羽目になった。

あれほどまでに強い気持ちを抱けていた時点で私はもう本来のものから遠く離れて行ってしまったのだろう。

あの頃のことは鮮烈に記憶に残っているのに思い起こしたくないことだ。


阿坂が言う私の正体。

かつて神としてあがめられたものは、役割を終え消えた。

その抜け殻に対して新しい信仰が集まり模倣されたもの。

ただの形だけをまねた劣化コピー。

なるほどと思った。

神そのものではなく。

神亡き後、残滓を寄せ集めて作られた張りぼて。

道理で何も持ってないし、何もできないはずだと。

怒りの中に諦念のようなモノがすっと私の中に沈み込んでいったのを覚えている。


それでも、むきになって証拠がないと私は叫んだが、

その時にはもう阿坂の言うことを信じていた。

違うとわかっていたのだ。

あれもまた異質なものであると。

でもまさか自分が書いた物語の設定とは…

さすがに今まで言葉を交わした人間にそんな妄言を言うものはいなかった。


でも、

でも、

人として生きないかと言われた。

その時の私はどう思っていたのか今でも複雑でわからない。

ただ消えたくない。忘れられたくない。と強く思ったのだ。

だから阿坂の手を取った。


でもね。ちょっとだけ思うの

世界を一度だけ改変できる力。

これでは阿坂の方が神ではないか……って。


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