第6話 シウとさらの出会い
この物語が、降り止まない雨の中にいるあなたの一本の傘になれますように
千葉理科大学大学院の生命科学研究所。シウが昼食後に休憩している時だった。
走って飛び込んで来る女性がいる。香川さらだった。
「まーじ、遅刻すっかと思った」
さらはそう言うと、シウのペットボトルの水をごくごく飲んだ。
シウは呆気に取られて言う。
「ごめんなさい」
シウは思わず謝る。
「なんであんたが謝るの」
さらはそのペットボトルをどんっ、と置いた。
「僕が飲んでた水だから」
さらの圧に圧倒されるシウ。
「気にするこたねーよ。それともあんたが嫌?」
「いえ」
「まさかこれ、毒入ってないよね?あんた飲んでたんだもんね?良かったー」
と言ってさらはシウの隣へ座る。
シウは咄嗟に、さらのカーディガンが肩からずれ落ちてはだけていたのを直す。
「気利くじゃん、名前は?」
「チェ・シウです」
「チェなの?シウなの?どっちで呼べばいい?」
「シウで」
「わかった。私はさらって呼んで」
「……さらさん」
シウは躊躇して言った。
「さら!さんはいらない」
「それはちょっと」
シウは戸惑った。
同じ研究室の藤田あかりがさらに声を掛ける。
「さらちゃん、前髪切ったんだ」
「切ったんよ、切りすぎたんよー」
「でも似合ってるよ」
「ほんと?まじ?生きてて良かったー」
さらは前髪の前で、指をひらひらさせた。シウは、さらに憧れのような思いを抱いた。シウはさらのようなインパクトがある女性は嫌いじゃなかった。
夕方になり、研究室のシウはそろそろ帰ろうかと準備していた。そこへさらがやって来る。
「シウ君、これ」
ペットボトルの水だった。
「さっきのお返しね」
「ありがとうございます」
シウは頭を下げた。
「お礼言うのこっちだから」
シウは、そうか……と納得した。
さらは聞く。
「今何時?」
シウは自分の腕時計を見て言う。
「五時二十分です」
「そう」
シウはさらの手首に無骨な腕時計があるのに気づき、しばらく考え込んだ。
なぜ、自分に時間を聞いたんだろう……
シウは頭にハテナが浮かび首を傾げた。
さらはその様子を見て言う。
「これね、時間合ってないのよ。もう何分遅れてるのかもよくわかんなくてさー」
「直したらいいです」
「それが出来たらしてんだけどさ」
「僕に、貸してください」
「何、直せるの?」
さらは腕時計を外してシウに渡す。
「古いからさ、文字消えてんだよね。どれがどのボタンなのかわからなくてさ。出来るの?」
シウは勘で、しかし迷いのない手つきで時間を合わせていく。
「はい、出来ました」
「うお、ほんとだ!直ってる」
さらはぱっと顔を明るくさせた。
「母親が買ってくれたやつだったのさ、捨てられなくてさ、ありがとう」
「いいえ、直って良かったです」
シウはさらの役に立てて満足だった。
さらはシウの顔をまじまじと見た。悪くないな、いや、むしろタイプかも……と思った。
「ときめきー」
そう言いながらさらは研究室を出て行った。
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