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花束の傘  作者: 祥野雅子
22/26

第22話 結婚指輪は外させない ─結婚コンチェルト

この物語が、降り止まない雨の中にいるあなたの一本の傘になれますように

 二月の寒さ極まる日だった。

 

 婚姻届を市役所へ提出し、南麻布の駐日本国大韓民国大使館へ婚姻申告書を提出すると、ハユンと亜希子は晴れて夫婦になった。


 ハユンと亜希子はジュエリーショップでサイズ直しを依頼していた結婚指輪を取りに行った。

 

 亜希子はその帰り道、ハユンに呟いた。

「指輪は、はじめて着ける時は、神さまの前で着けたいな」

「亜希子さん、ウエディングドレス着たいですか」

「……ドレスは着なくていいんだけど、ちゃんと誓って着けたいと思って」

「これから教会に一緒に行って貰えますか」

「うん」

「式は挙げられないけど、式みたいなことをしましょう」

 ハユンと亜希子は、カトリック市川教会へ向かった。

 

 聖堂の一番前の席に座ると、ハユンは両手を合わせて祈った。それを見て、亜希子も両手を合わせて祈った。

 

 二人はほぼ同時に祈り終わって目を開けた。目を合わせると微笑み合う。

「亜希子さん、指輪の交換しましょうか」

「そうですね」

 ハユンと亜希子は立ち上がって、祭壇の前で向かい合った。

 

 その時、聖堂のドアが開く音がして、光が差し込んで来る。

 

 春田神父だった。

 いつものように鼻歌を歌いながら祭壇へやってくる。

「あれ?これ、もしかして重大な場面?」

 春田神父はハユンが手にしている指輪ケースを目にして悟ったようだった。

「えっと……」

 ハユンは口ごもった。

「指輪の交換でもするの?」

 ハユンと亜希子は沈黙する。

「見ちゃいけないもんだった?」

 春田神父は飄々として言った。

 ハユンは思い切って言う。

「神父様、僕たちは結婚式をしたいのですが……残念ながらお金がありません。せめて祝福を与えていただけないでしょうか」

「なんで早く言ってくれなかったの。水くさいねハユン君」

 春田神父は口を尖らせた。

 ハユンと亜希子は、このお願いは失敗したと思った。

「結婚式に神父がいないのはいただけないよ。私に拒否する理由がありますか?」

 そう言うと春田神父は笑って、二人の間に立った。

「続けて」

 春田神父は促すと、ハユンはどちらの指輪を選ぶのか戸惑った。

「最初に新郎から新婦へ」

 春田神父はそう言うと、指輪ケースをハユンから受け取った。

 ハユンは小さな方の指輪を取ると、亜希子の左手薬指に嵌めた。

 春田神父が続ける。

「次に、新婦から新郎へ」

 亜希子は指輪を取ると、ハユンの薬指に嵌めた。

「この後、することと言ったら?ご自由に」

 春田神父はそう言うと目を伏せた。

 

 ハユンは、優しく亜希子にキスをした。


 帰り際、春田神父が二人に声を掛ける。

「二人とも、前、友人て言ってたよね?恋人だったんだ」

「いや、あの時は本当に友人で、今日から妻です」

 春田神父は少し思案した。

「……勢い大事だよね。二人とも神様の大切な子供だからね。お幸せに」

 ハユンと亜希子は会釈をした。

 春田神父は司祭館へ入ろうとして立ち止まる。

「あ、それから、週に一度は外食すると良いよ。奥さん休めるから」

「はい。食事は僕も作ります」

「そう。仲良くね」

 春田神父はそう言うと、鍵の束をぐるぐる回しながら帰っていく。


 一Kのハユンのアパートより二DKの亜希子のアパートの方が広く、ハユンの荷物を亜希子の部屋へ運んで結婚生活がスタートした。

 

 結婚一日目の夕食は、ハユンのリクエストでダイヤモンドカレーを二人で作った。

 食べ終わると、亜希子が言う。

「ハユンさんが居たからスムーズに作れました」

「ルーを変えるだけで、シチューやハヤシライスも作れますよ」

「凄い」

「他の日は僕も作りますよ」

「わー嬉しい」

「美味しいかわからないけれど」

「ハユンさんの料理食べてみたいです。韓国料理も教えてください」

「韓国料理覚えてくれるなんて嬉しいな。あと、神父様が言ったように、週に一度は外食しましょう」

「そうですね」

 亜希子は、同じ部屋にハユンと居ることが、信じられなかった。

 

 ……わたし、結婚したんだ……


 そう、しみじみ思った。

「お皿、洗っちゃいますね」

 亜希子はそう言うと、結婚指輪を外してテーブルへ置く。

 テーブルに置かれた指輪を、悲しげに見つめているハユン。

 

 洗い終わったのを見計らって、ハユンは亜希子の結婚指輪を手に取ると、亜希子の元へ行った。

「指輪しましょう」

 ハユンは亜希子の薬指へ嵌める。

 結婚指輪が亜希子の指で輝き、満足そうなハユン。

「皿洗いは僕の仕事にしよう」

「えっ?どうして?」

「指輪外すのを見るのが、耐えられない……」

 亜希子は微笑ましく、クスリと笑った。


 ハユンがいつものようにサイクルショップへ出勤すると、同僚の伊藤ゆきが声を掛ける。

「崔さん、もしかして結婚したんですか?」

「どうして」

「指輪、輝いてますよ」

「ああ、はい」

 ハユンは照れくさそうに答えた。

「彼女がいたことも知らなかったですよ。おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「奥さん日本人ですか?」

「ああ、はい」

「えー、国際結婚じゃないですか。海を越えて出会うなんてロマンチックですね」

 満更でもない顔のハユン。

「いいなあ。崔さん良い人だから、奥さんも良い人なんだろうなあ」

「はい、ほんとに良い人です」

「やだ、私の方が照れちゃいます」

 伊藤ゆきは両手で頬を押さえると、ハユンの背中をばしりと叩いた。

お読みいただきありがとうございます*͈ᴗ͈ˬᴗ͈ෆ

お気軽にご感想等くださると嬉しいです♡♡

今後ともよろしくお願いいたします( ơ ᴗ ơ )

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