第22話 結婚指輪は外させない ─結婚コンチェルト
この物語が、降り止まない雨の中にいるあなたの一本の傘になれますように
二月の寒さ極まる日だった。
婚姻届を市役所へ提出し、南麻布の駐日本国大韓民国大使館へ婚姻申告書を提出すると、ハユンと亜希子は晴れて夫婦になった。
ハユンと亜希子はジュエリーショップでサイズ直しを依頼していた結婚指輪を取りに行った。
亜希子はその帰り道、ハユンに呟いた。
「指輪は、はじめて着ける時は、神さまの前で着けたいな」
「亜希子さん、ウエディングドレス着たいですか」
「……ドレスは着なくていいんだけど、ちゃんと誓って着けたいと思って」
「これから教会に一緒に行って貰えますか」
「うん」
「式は挙げられないけど、式みたいなことをしましょう」
ハユンと亜希子は、カトリック市川教会へ向かった。
聖堂の一番前の席に座ると、ハユンは両手を合わせて祈った。それを見て、亜希子も両手を合わせて祈った。
二人はほぼ同時に祈り終わって目を開けた。目を合わせると微笑み合う。
「亜希子さん、指輪の交換しましょうか」
「そうですね」
ハユンと亜希子は立ち上がって、祭壇の前で向かい合った。
その時、聖堂のドアが開く音がして、光が差し込んで来る。
春田神父だった。
いつものように鼻歌を歌いながら祭壇へやってくる。
「あれ?これ、もしかして重大な場面?」
春田神父はハユンが手にしている指輪ケースを目にして悟ったようだった。
「えっと……」
ハユンは口ごもった。
「指輪の交換でもするの?」
ハユンと亜希子は沈黙する。
「見ちゃいけないもんだった?」
春田神父は飄々として言った。
ハユンは思い切って言う。
「神父様、僕たちは結婚式をしたいのですが……残念ながらお金がありません。せめて祝福を与えていただけないでしょうか」
「なんで早く言ってくれなかったの。水くさいねハユン君」
春田神父は口を尖らせた。
ハユンと亜希子は、このお願いは失敗したと思った。
「結婚式に神父がいないのはいただけないよ。私に拒否する理由がありますか?」
そう言うと春田神父は笑って、二人の間に立った。
「続けて」
春田神父は促すと、ハユンはどちらの指輪を選ぶのか戸惑った。
「最初に新郎から新婦へ」
春田神父はそう言うと、指輪ケースをハユンから受け取った。
ハユンは小さな方の指輪を取ると、亜希子の左手薬指に嵌めた。
春田神父が続ける。
「次に、新婦から新郎へ」
亜希子は指輪を取ると、ハユンの薬指に嵌めた。
「この後、することと言ったら?ご自由に」
春田神父はそう言うと目を伏せた。
ハユンは、優しく亜希子にキスをした。
帰り際、春田神父が二人に声を掛ける。
「二人とも、前、友人て言ってたよね?恋人だったんだ」
「いや、あの時は本当に友人で、今日から妻です」
春田神父は少し思案した。
「……勢い大事だよね。二人とも神様の大切な子供だからね。お幸せに」
ハユンと亜希子は会釈をした。
春田神父は司祭館へ入ろうとして立ち止まる。
「あ、それから、週に一度は外食すると良いよ。奥さん休めるから」
「はい。食事は僕も作ります」
「そう。仲良くね」
春田神父はそう言うと、鍵の束をぐるぐる回しながら帰っていく。
一Kのハユンのアパートより二DKの亜希子のアパートの方が広く、ハユンの荷物を亜希子の部屋へ運んで結婚生活がスタートした。
結婚一日目の夕食は、ハユンのリクエストでダイヤモンドカレーを二人で作った。
食べ終わると、亜希子が言う。
「ハユンさんが居たからスムーズに作れました」
「ルーを変えるだけで、シチューやハヤシライスも作れますよ」
「凄い」
「他の日は僕も作りますよ」
「わー嬉しい」
「美味しいかわからないけれど」
「ハユンさんの料理食べてみたいです。韓国料理も教えてください」
「韓国料理覚えてくれるなんて嬉しいな。あと、神父様が言ったように、週に一度は外食しましょう」
「そうですね」
亜希子は、同じ部屋にハユンと居ることが、信じられなかった。
……わたし、結婚したんだ……
そう、しみじみ思った。
「お皿、洗っちゃいますね」
亜希子はそう言うと、結婚指輪を外してテーブルへ置く。
テーブルに置かれた指輪を、悲しげに見つめているハユン。
洗い終わったのを見計らって、ハユンは亜希子の結婚指輪を手に取ると、亜希子の元へ行った。
「指輪しましょう」
ハユンは亜希子の薬指へ嵌める。
結婚指輪が亜希子の指で輝き、満足そうなハユン。
「皿洗いは僕の仕事にしよう」
「えっ?どうして?」
「指輪外すのを見るのが、耐えられない……」
亜希子は微笑ましく、クスリと笑った。
ハユンがいつものようにサイクルショップへ出勤すると、同僚の伊藤ゆきが声を掛ける。
「崔さん、もしかして結婚したんですか?」
「どうして」
「指輪、輝いてますよ」
「ああ、はい」
ハユンは照れくさそうに答えた。
「彼女がいたことも知らなかったですよ。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「奥さん日本人ですか?」
「ああ、はい」
「えー、国際結婚じゃないですか。海を越えて出会うなんてロマンチックですね」
満更でもない顔のハユン。
「いいなあ。崔さん良い人だから、奥さんも良い人なんだろうなあ」
「はい、ほんとに良い人です」
「やだ、私の方が照れちゃいます」
伊藤ゆきは両手で頬を押さえると、ハユンの背中をばしりと叩いた。
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