第21話 さらの嘘
この物語が、降り止まない雨の中にいるあなたの一本の傘になれますように
シウとさらは、ショッピングモールでウィンドウショッピングをしている。
さらが突然声を出す。
「あ!こないだ看病してくれたお礼にさ、シウ君に何か買いたいなあ」
「僕は大丈夫ですよ」
「何が欲しい?」
「大丈夫ですよ」
「正直に」
「洋服かな」
「洋服ね」
さらはメンズがある店に入った。
「ねえ、これは?」
さらは一枚のチャコールの春セーターをシウの体に合わせる。
「良いですね。でも、こっちの、この色が良いです」
さらは顔を曇らせて言う。
「ネイビー?ネイビーよりね、シウくんにはチャコールの方が似合うよ。試着してみて」
「はい、してみます」
シウは素直に試着室へと入った。
試着室から顔だけ出すシウ。
「着ました」
「見せて見せて」
シウは全身をさらに見せる。百八十センチのシウによく似合っている。
「かっこいいじゃん」
「そうですか?」
シウはミラーに映る自分を見て納得する。
「うん、これが良いです」
「買って来るね」
「ありがとうございます」
シウは丁寧に頭を下げた。
会計を済ませたさらが、プレゼント仕様の包みをシウに渡す。
「はい、プレゼント」
「嬉しいです。大切にします」
シウが感謝を述べると、さらも満足そうにしている。
「じゃあ、僕はもう研究室に行かないと……先に行きます。また会いましょう」
「うん。じゃあね」
シウとさらは手を小さく振り合う。
二人とも名残惜しそうにしている。
「また」
「また」
シウはなかなか去らない。
「また」
「また」
「また」
「また」
ゆっくり後退していたシウが、人混みに紛れて見えなくなる。
さらは自分の服を見て回る。
さらはぽつりと呟く。
「どれもこれも小さく作りやがって。私が大きいんじゃないんだよ。服がちいせーんだよ」
ぽっちゃり体型のさらには、どれも小さかった。
エスカレーターを昇っていくさら。すれ違う下りのエスカレーターに、見覚えのある顔を見つける。
さらは下を覗き込み、全身ネイビーを身をまとっている男性を追いかける。
どうにか、男性の前に辿り着く。呼吸が乱れているさら。
「あら、中野さん。お久しぶり。元気そうだね」
「さらもな。もしかして俺を追いかけて来たのか」
「いや、ばったりだよー」
さらは、中野俊介の左手薬指を見る。指輪はない。さらの視線に気づく中野。
「ああ、結婚はまだしてないよ」
「私は別に、何も」
気づかれて気まずいさら。さらは中野が着ているネイビーのセーターを見て言う。
「まだこのセーター着てるのね」
「さらがくれたからね」
「……別れた女がくれたセーターなんて、捨てればいいのに」
「少しも嬉しくない?」
「……当たり前でしょ。全然嬉しくないよ」
さらは嬉しそうに言った。
「そうだよな。さらがくれたからじゃなくて、暖かいから着てるんだ。未練じゃないから、安心して」
複雑な表情のさら。
「ずっとここで話すのもなんだから、時間あるならカフェにでも行かないか」
「いいよー」
さらは快諾した。
カフェで向かい合っているさらと中野。コーヒーを口にした中野が口を開く。
「率直に聞くけど、結婚は」
「まだしてないわよ」
「恋人はいるんだろうな」
さらは首を振る。
「ううん、特にいない」
「充実してないのか」
「まあね、そんなとこよ」
中野は一息置いて言う。
「良かったら、連絡先を。あの時お互いに消したのになんだけど」
さらは躊躇して言う。
「まあ、また知り合いになったし、何かで使うかもしれないし」
「……言い訳じみてるな」
「そう?私は、喋り過ぎるところがあるから」
「嫌ならいいけど」
「別に嫌じゃないけど」
「仕事の連絡くらいにしとくよ」
「仕事は上手く行ってるの?」
「研究を実用化するのは、なかなか難しいな」
さらは中野を見つめる。以前より素敵になってるような気がした。
「でもやりがいがあるよ」
中野はそう言って微笑んだ。さらは、この笑顔が好きだったな、と思った。
連絡先を交換するさらと中野。
「じゃあ、先に」
中野はそう言うと、伝票を持って会計を済ます。
一人になったさらは動揺していた。
……この胸のざわめきはなんだろう……
ふとシウの顔が浮かんで、恋人がいないと言ってしまったことに罪悪感も感じた。
さらは思わずシウに電話をする。
「もしもし」
「もしもしさらさん」
「今、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「シウ君、ごめんなさい」
「どうしたんですか?」
「本当にごめんなさい」
「……」
シウは訳分からず戸惑う。
「……大丈夫ですか」
「今ね、ある人に、恋人がいるか聞かれて、つい……いないって言っちゃったの」
「そうですか。恥ずかしかったんでしょう」
「ごめんなさい」
「大したことじゃないですよ」
「……大したことなの」
さらは泣き声で言う。
「?」
「言った相手がね、元婚約者なの」
「婚約者……」
「昔、結婚しようとしてた人なの」
「……」
「私、どうしたらいいかな?もう会わなければいいのかな?」
「そうですね。僕は会って欲しくないです」
「わかった。もう会わない。約束する」
「うん、泣かないで」
いつも穏やかなシウの胸にざわめきが起こっていた。
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