第14話 同胞の犯罪(ゆめいろ銀行強盗事件)
この物語が、降り止まない雨の中にいるあなたの一本の傘になれますように
ゆめいろ銀行船橋支店に、強盗が入るという事件が発生した。
船橋北警察署でハユンにより犯人の取り調べが行われていた。逮捕されたのはソン・イルジェ、四十二歳だった。
ソン・イルジェが韓国語で言う。
「持ってる奴らから奪って、何が悪いんだ」
ハユンはソンの胸ぐらを掴んで韓国語で罵倒する。
「開き直るな。このクズが。ゴミが。いや、お前はそれ以下だ。ゴミはまだ役に立つこともあるからな」
ハユンは亜希子が下半身不随になってから、被疑者を憎む気持ちが増しているのを自分でも感じていた。
「まあまあ。抑えて」
同僚刑事の伊藤潤二がハユンの手を優しく解いた。同じく同僚の刑事、遠藤武史が言う。
「日本語で頼むよ、俺たち何言ってるか分からないから」
ソン・イルジェはハユンを睨んだ。
「お前はそれでも同胞か」
「同胞だったらなんだって言うんだ。良い同胞と悪い同胞がいる」
「俺は悪い同胞だと言うのか」
「良い同胞だと言うのか?」
ハユンは睨みつけて言った。
「それなら、悪い同胞と悪い日本人ならどっちがましだ」
ソン被疑者は問いただす。
「まし?罪を犯す者にましなんて言葉は必要ない」
「……」
「お前はただただ最低な人間だ。温情など期待するな」
ハユンはソン・イルジェのイスを蹴り上げた。
「まあまあ」
遠藤刑事がハユンをなだめる。
ハユンは仕事帰り、スーパーに寄る。
亜希子に果物を土産にしようと思ったのだった。さっきとは全く違う穏やかな夫の顔をしている。
亜希子の死が近いことを知って、なるべく美味しいものを食べさせようという気持ちからだった。
ハユンは大きないちごのパックを二つ持ってレジへ向かった。
家に帰って来たハユン。
「おかえりなさい」
亜希子は嬉しそうに笑顔で迎える。ハユンはいつものこの瞬間がやっぱり好きだと思った。
「ただいま」
ハユンは亜希子にビニール袋を渡すと、亜希子は中を覗き込む。
「わーいちご?」
取り出して喜ぶ亜希子。テレビではニュースが流れている。
「今日、午前十時頃、ゆめいろ銀行船橋支店に強盗に入った……」
亜希子は船橋という単語に反応して、テレビを凝視する。
「船橋ですって、ハユンさん。ハユンさん知ってた?」
「……」
ハユンは仕事の話を亜希子にしないようにしていた。心配させたくないのと、亜希子に社会の闇の部分など似つかわしくないと思っていたからだった。
テレビのアナウンサーが事件を伝える。
「ソン容疑者は動機について、一週間食べるものがなく衝動的にやった、と供述しているということです」
「一週間も食べてないんですって……かわいそうに……」
亜希子はそう呟いた。いちごをお土産に貰えるような自分の立場に、申し訳ないような気持ちにもなった。
ハユンはすかさず言う。
「かわいそうじゃないだろう。刃物を向けられた行員の身にもなってみろ」
「そ……そうね」
ハユンはいちごをつまみながら言う。
「聖書で受け入れられない箇所がいくつかある」
「ん?」
亜希子はどこかしら、と思う。
「その一つがイエスが罪人を赦すところだ」
「そうなの?」
「自分も赦されなくて良いから……赦したくない」
亜希子は腑に落ちなかった。
「……赦しがあるから、愛が存在出来るんではなくて?」
「……」
ハユンは混乱していた。本質的なことのように感じたが、理解したくない気持ちもあった。
「憎しみって、慎重に扱った方が良い感情よね……ね?」
亜希子はそう言うと、顔を曇らせた。
「また外国人に風当たりが強くならないかしら。心配……。やだ、ハユンさん。洗ってないまま食べちゃったの?いちご」
「ああ」
ハユンは苦笑いして、台所でいちごを洗った。
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