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暖香はとことん不機嫌だった。
「おーい暖香、いつまでも拗ねてんなよ?」
「うっさいっ。ああもう、なんであんな奴見逃したんだろう」
机に突っ伏す暖香を見て、ロンレイがやれやれとため息を吐いた。
――あいつ、このあと何をしてもおかしくないような奴だもん。絶対こりないでまた黒魔法しかけてきたりしそうだよ
そうすれば、街の被害はまた大きくなるかもしれない。そうなってしまっては、暖香は自分を責め続けることしかできなくなる自信がある。
「まったく、それどんな自信だよ。しかたないじゃないか、そんなこと言ったらあいつのこと殺さなきゃいけなくなるぞ?」
ロンレイに呆れ半分で言われ、う、と言葉に詰まる。
「それに俺らもあきらめたわけじゃねぇ。ほら、星喇と萊兎は、お前がそうやってうじうじしてる間にもちゃんと黒魔力収集源の目星をつけてるぞ?」
顔を上げると、食卓に座った二人が地図を広げていた。
「ここは……でもちょっと街から離れすぎじゃないですか?」
「いや、でも感染症の被害の広がり方を見てみると、ここから始まってるんだよな」
「じゃあ、逆にこっちっていうのは考えられませんか? 海沿いなので潮風がここらへん独特な吹き方してますから」
定規やペンを使って地図に何か書き込んではバツ印をつけていく。落ち着き払っているようで、その背中はやはり少し焦っているようにも感じられた。それでも、二人はしっかり解決へ向かって行こうとしているのだ。そのことがひしひしと感じられた。
――よくあんなに落ち着いていられるなあ……
見習うべきだ、と思う。もう過ぎた行動について他の人に文句を言って、その上自分は何もしないなんて馬鹿みたいだ。あの狂った男をあのまま残しておくのがこんなに嫌なら、二人のようにしっかり考えるべきなのに。
「……よし、暖香!」
突然名前を呼ばれ、慌てて立ち上がる。
「これ、ある程度場所を絞ってみた。今日はもう遅いから明日になるが、手分けして一か所ずつ回ってみよう」
これ地図、と言って渡されたそれには、青や赤、緑、黄色のペンで風向きや土地の勾配などの書き込みがされていた。その中に、黒いペンで何十にも囲まれた地域が二か所ある。
「あれ、この地図人数分あるの?」
「お前のと萊兎のだけだ」
「え?」
わけがわからず、疑問符が頭の中に渦巻く。星喇は頼もしい微笑を打変えて腰に手をあてた。
「お前と萊兎、二人で今回の件を進めてくれ。分担とか収集源を見つけたときの対策とかも、二人で話し合いながら俺と紋太とロンレイに指示してくれ」
「で、でも私」
「だからさ、」
何も考えないでいじけてただけだし、と言おうとして遮られる。振り向くと、二階にいたはずの紋太がいつのまにか下りてきて水の入ったコップを手に持ち、経っていた。
一気に水を飲み干し、コップをテーブルに置く。
「『さっきまでいじけてるだけだったのに』、なんて思ってる時点で全然反省できてないよ、暖香」
その言葉には、妙に説得力があった。ロンレイと星喇も頷いている。萊兎は温かい目で見守っていた。
「俺も謝るよ。俺があそこで立ち止まったからまたやり直しになっちゃったんだ。だから暖香、頼む」




