♢25♢
ぶちまけられた粉が舞う速度が、随分とゆっくりに感じた。
そんな変な感覚の中で、星喇はたしかに何かが切れる音を聞いた。
「ふっ・・・ざけるなよ貴様!」
怒鳴り、跳躍して一気に男に近づく。ふつふつと体の中で沸騰する怒りを握った拳に籠めて男の顔を殴り飛ばす。途中、何か粉が大量に触れたような気がしたが、そんなことはおむどうでもよかった。力を集中させたせいで揺らめき、激しく燃え始めて炎を纏う拳をもう一度顔面に叩き込む。
「―――っ・・・!」
―なんだよ、よわっちいじゃんか・・・・
星喇は苦痛に顔を歪める男に、続けて拳を叩き込もうとした。
しかし、異変は突然だった。
「がっ・・・!?」
「星喇!?」
後ろから、暖香の声が聞こえる。星喇は自分の身に何が起きたのか、最初理解することが出来なかった。
自分の体が、まるで風に乗っているかのように宙に浮き、仲間の元へと飛ばされる。地面に勢いよく背中を打ち付け、うめき声が漏れた。男が腫れた頬を抑えながら空いた方の手をあげて、指を軽く弾いたのがわかった。
―!!結晶・・・
弾みで見えた自分の腕に、彼は全身が強張るのを感じた。
星喇の体中に薄い、小さな氷の欠片がこびり付いている。それだけでは、なんの威力もないはずだ。なのに実際は、まるで男の思うままに体が動かされてしまう。
「リストリクション・サークル・・・、元素氷の操縦系に属す魔法です」
まるで書物を読み上げるかのような声で、まっすぐ男を見つめたまま萊兎が言う。
「見てください、ただの薄い氷の膜ではありません。一つ一つに、魔法陣が刻まれてます」
その言葉に、洋服についた氷の膜を見ると、確かにあった。
氷の膜に、魔法陣が。
「ずいぶんと・・・芸達者ですね」
怒りを含んだ声で萊兎が言った。
ここまで真剣な眼差しの萊兎は、見たことがなかった。まるで、独裁者を睨む売れない旅商人のような。
爛々と輝く恨みの籠った、赤みがかった茶色の目。
「よく知っているな、小娘。そうだ、その通りだ。お前の体は私の思うまま」
「黙ってください。芸達者なのは認めます。それならそれらしく路上で一人道化師の真似でもしていたらどうですか」
―「私のもの」、か
星喇はその言葉に若干動揺しつつも、首筋を流れる汗を拭うこともできないくらい拘束されきった自分の体を恨んだ。
「魔法も優れたもんだなあ。街の人間もこうして殺して行けば、残された奴も相当苦しいんだろうな
」
「!!」
その言葉は、誰よりも、
「・・・お前、何て言った。俺の聞き間違えじゃないよね?」
紋太の心に、深く突き刺さった。
「だから、街の人間も―」
「スピリット・サモン」
男の声と重なった紋太の低い声。それが聞こえた途端、彼の姿に異変がおきた。
黒くなびく髪、墨のように濃淡のある黒い瞳。
彼の特徴的なそれはもうそこにはなかった。
一瞬、紋太の周りの空気が電気をうけたように震える。
髪は淡い緑色にそまり、瞳はすべてを見極めるかのような青色になっていた。




