♢13♢
二回から、物音はしなかった。星喇が上に上がってから、大した時間も経っていない。
「それで、ロンレイは?」
「俺?」
「ロンレイもなんかあったんでしょう」
「ああ・・・」
ロンレイは今思い出したようにふと顔を上げる。
「俺は、あいつの屋敷の前に捨てられてたらしい。覚えてねぇんだけど、とにかく物心ついたときにはあの屋敷に違和感なくいた。あいつと俺は同い年だから仲が良かったんだけど、二人で、こっそり犬を飼ってたんだ」
「・・・へぇ」
「その犬がさ、それこそあの魔動機が完成した時期だよ。いなくなったんだ。最初は散歩か何かで遠出してるだけだろうと思ったんだけど、何かがおかしかった。そしたら・・・縁側の前にそいつがいるのが見えてさ」
ロンレイがその時のことを思い出したように目を見開く。
「ね、寝てるように見えたんだよ。だけど、抱いてみたら、くたっとして、冷たくて、死んでるんだなあって」
「え・・・」
「びっくりして、そいつ抱いて星喇探したんだ。そしたらあいつも、どっかから凄い形相で走ってきて。家を出るとか言ってさ、理由聞いたら、親父があんな薬作ったって言うじゃないか。こいつはそれで殺されたんだなあと・・・なんか・・・、根拠もねぇが、はっきり思った」
「それで、その犬は?」
紋太の問いに、ロンレイは自分の尻尾を見つめる。
「埋めてやったよ。屋敷の裏の雑木林に。俺も一緒に家出ることにして、まあ、最初に話した通りあいつに化けた・・・。その犬、ロンレイのことを忘れないように、俺はロンレイになった」
「・・・かわいそう」
かわいそう、で済まされる話ではないことはわかっている。だけど、暖香にはそれ以外の言葉が見つからなかった。
「・・・別にもういいさ。どうせ、あのとき死んでなくても今は死んじまってる」
「でも、殺されたって!」
強く言った暖家の言葉に、ロンレイは答えなかった。
窓の外をじっと見つめ、目を細める。
「ああ、懐かしいな」
―許せるのかな
暖香はふと思う。
騙されて、利用されて、殺されて。そんなこと、きっとあってはならないんだ。しかも、理不尽な理由すらもない。
「いいの?おとうさんのことは」
「・・・もう赤の他人だ。だけどそうだな、許せはしないな。憎くて憎くて、しかたがない。今でもそれは変わらない。まあでもいつか、仕返しくらいしてやるさ」
「じゃあその時には、私たちも手伝うね」
「私たちって・・・」
一緒にされた紋太が苦笑いする。萊兎もふと笑う。
だけど二人とも、嫌そうな顔はしなかった。
「・・・そうか。好きにしてくれ」
ぶっきらぼうに言うけど、ロンレイはどこか嬉しそうだ。
「・・・ねぇ、ロンレイの、ロンレイって犬と一緒になる前・・・。どんな、名前だったの?」
紋太が問う。
ロンレイはふと遠くを見るように目を細め・・・、笑ったような気がした。
遠い記憶を懐かしむように。
「・・・とっくに忘れたさ」




