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こぼれた魔法  作者: 亜架 耀太
第二章 森の中から
13/32

♢13♢

 二回から、物音はしなかった。星喇が上に上がってから、大した時間も経っていない。


「それで、ロンレイは?」

「俺?」

「ロンレイもなんかあったんでしょう」


「ああ・・・」


 ロンレイは今思い出したようにふと顔を上げる。


「俺は、あいつの屋敷の前に捨てられてたらしい。覚えてねぇんだけど、とにかく物心ついたときにはあの屋敷に違和感なくいた。あいつと俺は同い年だから仲が良かったんだけど、二人で、こっそり犬を飼ってたんだ」


「・・・へぇ」

「その犬がさ、それこそあの魔動機が完成した時期だよ。いなくなったんだ。最初は散歩か何かで遠出してるだけだろうと思ったんだけど、何かがおかしかった。そしたら・・・縁側の前にそいつがいるのが見えてさ」


 ロンレイがその時のことを思い出したように目を見開く。


「ね、寝てるように見えたんだよ。だけど、抱いてみたら、くたっとして、冷たくて、死んでるんだなあって」

「え・・・」

「びっくりして、そいつ抱いて星喇探したんだ。そしたらあいつも、どっかから凄い形相で走ってきて。家を出るとか言ってさ、理由聞いたら、親父があんな薬作ったって言うじゃないか。こいつはそれで殺されたんだなあと・・・なんか・・・、根拠もねぇが、はっきり思った」


「それで、その犬は?」


 紋太の問いに、ロンレイは自分の尻尾を見つめる。


「埋めてやったよ。屋敷の裏の雑木林に。俺も一緒に家出ることにして、まあ、最初に話した通りあいつに化けた・・・。その犬、ロンレイのことを忘れないように、俺はロンレイになった」


「・・・かわいそう」


 かわいそう、で済まされる話ではないことはわかっている。だけど、暖香にはそれ以外の言葉が見つからなかった。


「・・・別にもういいさ。どうせ、あのとき死んでなくても今は死んじまってる」

「でも、殺されたって!」


 強く言った暖家の言葉に、ロンレイは答えなかった。

 窓の外をじっと見つめ、目を細める。


「ああ、懐かしいな」


―許せるのかな


 暖香はふと思う。

 騙されて、利用されて、殺されて。そんなこと、きっとあってはならないんだ。しかも、理不尽な理由すらもない。


「いいの?おとうさんのことは」


「・・・もう赤の他人だ。だけどそうだな、許せはしないな。憎くて憎くて、しかたがない。今でもそれは変わらない。まあでもいつか、仕返しくらいしてやるさ」

「じゃあその時には、私たちも手伝うね」

「私たちって・・・」


 一緒にされた紋太が苦笑いする。萊兎もふと笑う。

 だけど二人とも、嫌そうな顔はしなかった。


「・・・そうか。好きにしてくれ」


 ぶっきらぼうに言うけど、ロンレイはどこか嬉しそうだ。


「・・・ねぇ、ロンレイの、ロンレイって犬と一緒になる前・・・。どんな、名前だったの?」


 紋太が問う。

 

 ロンレイはふと遠くを見るように目を細め・・・、笑ったような気がした。


 遠い記憶を懐かしむように。


「・・・とっくに忘れたさ」



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