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「それからずっと、俺たちはあの倉庫で魔動機を作り上げていった。学校が終われば部屋にも戻らず倉庫に駆けたし、休みの日はそれこそほとんど一日中そこにいた。それで・・・完成したのが―三年前だ。だから一年間作り続けてたことになるな。・・・だけど、その完成は俺にとっていいものではなかった」
カタカタと、窓ガラスが揺れる。どこからかやってきた嵐が、この森にも近づいてきているようだ。
「・・・楽しみにしてたんじゃ、なかったの」
暖香がささやくような声で聞いた。
「そうだ。俺は、悪夢から人を救う薬が出来るのを、楽しみにしてたんだ。それ以外のものなど、俺は・・・」
星喇の顔が苦しみに歪んでいく。
「どういうこと?」
暖香が再び聞いたが、星羅が口を開くことはなかった。
「まったく・・・、いいのか、俺が離しちまうぞ?」
「―――」
ロンレイが言っても、星喇は無言のまま俯く。
「・・・代わって俺が話すよ。あいつの父親は、もともとそんなものを作るつもりはなかった。単刀直入にいっちまうと・・・、洗脳って、わかるか?」
その言葉に、緊張が走る。
「洗脳って・・・誰を?」
「誰を、ね・・・。誰をじゃねえ。世界中を、あいつは自分のものにしようとしたんだよ。だから自分の命令を世界中が聞くように、と。薬を作った。―ガキが夢見るような話だよ。それを星喇が知ったのは、魔動機が完成した後・・・。魔動機もぶち壊して、父親もぼこぼこにして、あの家を出ていった。あいつがそうしてなかったら、今頃世界はすごいことになってたかもしれない」
「・・・よな」
ふと、星羅が呟いた。
「何も信じては・・・駄目だよな・・・心も、言葉も、人も・・・世界も」
そう言い、がたりと立ち上がる。無言のまま廊下に出た。
階段を一段一段上がる足音が聞こえる。妙に湿った空気に、乾いた音が響く。そして消える。
「・・・星喇さん、大丈夫なんですか?」
「え?ああ、まあ平気でしょ。あいつは心が他の人よりもずっと弱いだけさ。萊兎なんかよりも、な。まったく、あいつは何も悪くないのにな」
「・・・そうですよね」
萊兎が淡く笑顔を浮かべようとして、やめて、そっと目を伏せる。
恐ろしい夢の続きを促すように、意地悪な雨は木々を、地面を叩いていた。




