第九話 武装した連中
【土曜日 07:26/村・広場】
空気が変わった。
さっきまでの朝の慌ただしさとは違う。
もっと鋭い緊張。
「何人だ」
ガンツが即座に聞く。
若い男は肩で息をしながら答えた。
「五、六……いや、もっといるかも」
「鎧は着てたか?」
「革鎧っぽい。槍も持ってた」
ガンツの顔から笑いが消える。
村長も険しい。
相沢は周囲を見た。
広場。
井戸。
倉庫。
人。
朝の作業で、まだ荷物が散っている。
(……まずい)
視界の端に赤線。
【中央導線閉塞率:上昇】
【緊急時対応効率:低下】
もう完全に現場アラートだった。
「片付けろ」
相沢は即座に言った。
「え?」
「荷物、広場から退かせろ」
「今!?」
「人が集まる」
ガンツが一瞬だけ考え、すぐ怒鳴った。
「聞いたか! 通路空けろ!」
村人たちが慌てて動く。
木箱。
樽。
荷袋。
中央から端へ。
人が動き始める。
相沢はその間に聞いた。
「この村、武装した集団はよく来るんですか」
村長が重く首を振る。
「……たまに」
「何しにですか」
「税です」
嫌な響きだった。
相沢は眉をひそめる。
「税?」
「作物や家畜を持っていかれる」
「どれくらい」
「年によりますが……かなり」
村長は言葉を濁した。
だが表情で分かる。
軽くない。
ガンツが吐き捨てる。
「要は持ってくだけだ」
「役人か?」
「半分な」
つまり。
合法と暴力の中間。
食品業界にも似たようなものはあった。
力のある取引先。
一方的な条件。
断れない契約。
相沢は少しだけ胃が重くなる。
「……アイザワ」
ミナが小声で聞く。
「顔怖い」
「知ってる構造だから」
「こういうの、あんたの世界にもあるの?」
「ある」
普通に。
形が違うだけで。
その時。
見張り台から声。
「来たぞ!」
全員が振り向いた。
街道。
朝靄の向こう。
馬。
槍。
革鎧。
確かに武装している。
六人。
いや、後ろにもいる。
八人。
先頭の男は、痩せた中年だった。
目が細い。
笑っていない。
相沢は見た瞬間に思った。
(あ、面倒なタイプだ)
営業経験が告げている。
こういう目の人間は、
最初から“奪う前提”
で来る。
男たちは村へ入ってくる。
周囲を品定めするように見る。
倉庫。
畑。
家畜。
人。
値踏みだ。
先頭の男が口を開いた。
「随分と騒がしい朝だな」
村長が前へ出る。
「……お久しぶりです、デルグ殿」
デルグ。
名前らしい。
デルグは笑った。
薄い笑み。
「ゴブリンが出たそうじゃないか」
「ええ、昨夜」
「大変だったな」
言葉だけは優しい。
だが目が違う。
村長も分かっている顔だった。
デルグの視線が、倉庫へ向く。
「それで?」
「……何でしょう」
「収穫は増えたか?」
静かになる。
相沢は理解した。
こいつ。
最初から、それを聞きに来た。
村長が慎重に答える。
「例年通りです」
嘘だ。
デルグも分かっている。
視線が倉庫へ向く。
腐った野菜を移動している最中だった。
タイミングが悪い。
デルグが笑みを深くした。
「例年通り、ねぇ」
嫌な空気。
その時。
視界の端に文字。
【警告】
【外部圧力を確認】
【資源損失リスク:高】
【推奨:情報管理】
相沢は小さく息を吐いた。
分かってきた。
この世界。
ゴブリンだけじゃない。
本当に危ないのは、
“構造を利用してくる人間”
だ。




