表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/11

第六話 村の朝は早い

【土曜日 05:12/村・広場】


 眠った気がしなかった。


 ミナの家で少し横になったはずなのに、気づけば外が明るくなり始めていた。


 木の窓から朝日が差し込む。


 鳥の声。


 焚き火の匂い。


 そして。


「うわっ……」


 体が重い。


 疲労が一気に戻ってきた。


 川。


 避難。


 ゴブリン。


 北側柵。


 数時間で色々ありすぎた。


 相沢は顔を覆った。


「……休みの日なんだけどな」


 本来なら今頃、自宅で寝ているはずだった。


 昼まで寝る予定だった。


 コンビニでカップ麺買って、動画でも見ながらダラダラする予定だった。


 それが何故か、異世界で寝不足になっている。


 意味が分からない。


 外から声が聞こえた。


「アイザワー!」


 ミナだった。


 元気すぎる。


 相沢は重い体を起こし、外へ出た。


     ◇


 朝の村は、夜とは別の意味で騒がしかった。


 井戸には人が集まり。


 鍋の匂いが漂い。


 荷車が動き。


 子供が走り回る。


 生活の音だ。


 だが相沢は、広場へ出た瞬間に顔をしかめた。


(……詰まってる)


 井戸前。


 人が集中している。


 水汲み。


 会話。


 荷物。


 全部が交差していた。


 さらに、家畜まで混ざっている。


 朝のラッシュアワーだった。


 視界の端に、薄く線が浮かぶ。


【導線干渉率:高】


【転倒リスク:中】


 もう慣れ始めてる自分が嫌だった。


「どうしたの?」


 ミナが隣に来る。


「井戸」


「井戸?」


「人集まりすぎ」


「朝だからね」


「時間ずらした方がいい」


「時間?」


「水汲みと荷運びがぶつかってる」


 ミナが井戸を見る。


 ちょうどその時。


「わっ!」


 子供が転び、水桶が倒れた。


 水が地面に広がる。


「あー……またか」


 ミナが呟いた。


「よくあるのか」


「朝はいつもこんな感じ」


 相沢は頭を押さえた。


 問題が多い。


 多すぎる。


 しかも一つ一つは、小さい。


 だが小さい問題が積み重なって、村全体の疲弊になっている。


 食品営業時代によく見た。


 倉庫。


 店舗。


 物流センター。


 大事故は、だいたい“小さい非効率の放置”から始まる。


「アイザワ殿」


 村長が歩いてきた。


 朝なのに、もう働いている。


 いや、この村ではそれが普通なのだろう。


「昨夜は助かりました」


「いえ」


「ガンツから聞きました。北側の件も」


 村長の顔が少し曇る。


「……あそこは、昔から手薄でしてな」


「何か理由が?」


「森が深い。大型の獣も少ない。だから、人手を割かなかった」


「そこを突かれたんですね」


「ええ」


 村長は頷いた。


 ガンツもやってくる。


 朝から肉を食っていた。


 胃が強い。


「で、どうするんだ」


「何が」


「北側だよ」


 相沢は少し考えた。


 考える前に、もう視界には色々見えている。


 柵。


 動線。


 見張り。


 配置。


 改善案。


「まず、北側に見張りを増やす」


「人が足りねえ」


「交代制にする」


「交代?」


「疲れた状態で見張っても意味がない」


 ガンツが腕を組む。


「……確かに、夜明け前は集中切れてる奴多いな」


「あと、鐘」


「鐘?」


「どこからでも聞こえる位置にあるか?」


 村長とガンツが顔を見合わせた。


「……広場だけですな」


「なら北側で何かあった時、遅れる」


 ミナが驚いた顔をする。


「そんなこと考えたことなかった」


「考えるのが仕事だったから」


「営業って怖い」


「何で?」


「そんな細かいことばっか見てるの?」


 見ている。


 というより、見ないと数字が落ちる。


 誰かが困る。


 怒鳴られる。


 だから嫌でも見る癖がつく。


 その時。


 ぐうううう。


 腹が鳴った。


 全員が黙る。


 相沢は顔を逸らした。


「……昨日からまともに食ってない」


 ミナが吹き出す。


「緊張感台無し!」


 ガンツは大笑いした。


「ハハハ! お前、本当に変な奴だな!」


 村長まで笑っている。


 なんだこれ。


 相沢は少しだけ居心地悪そうに頭を掻いた。


 だが。


 悪くない空気だった。


 その時だった。


 広場の端で、怒鳴り声が上がる。


「ふざけんな! 腐ってんじゃねえか!」


 空気が変わる。


 相沢たちはそちらを向いた。


 荷車。


 木箱。


 そして。


 腐った野菜。


 嫌な予感がした。


 視界の端に、赤い文字が浮かぶ。


【食料損失発生】


【倉庫環境悪化を確認】


【推定継続損失率:増加中】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ