第五十八話 赤いゴブリン
【土曜日 08:46/簡易小屋前】
空気が重かった。
村人達も小声で話している。
「赤いゴブリンって何だ」
「普通と違うのか……?」
不安が広がっていた。
相沢は小屋の壁へ背を預ける。
考える。
嫌な情報ばかり増えていた。
◇
【土曜日 08:51/簡易小屋】
男はまだ熱に浮かされていた。
リリアが布を替える。
「傷はどうですか」
相沢が聞く。
「深いですが、
命は繋がってます」
「そうですか」
リリアは少し迷ってから言った。
「ただ……
かなり怯えています」
相沢は男を見る。
寝ているのに。
肩が震えていた。
◇
【土曜日 08:57/広場中央】
ガンツ。
ミナ。
村長。
全員集まる。
「整理する」
相沢が言う。
「まず、
ゴブリンは学習してる」
ガンツが腕を組む。
「ああ」
「さらに、
他の村も襲われてる可能性が高い」
空気が冷える。
ミナが嫌そうな顔をした。
「全然良い話無いね」
「俺もそう思う」
相沢は地面へ線を書く。
【片目】
↓
【統率】
↓
【長期戦】
その下。
【赤】
「問題はこれ」
村長が低く言う。
「通常種ではない、
という事でしょうか」
「多分」
相沢は少し目を細める。
「嫌な方向の」
◇
【土曜日 09:04/広場】
若い見張りが慌てて来る。
「回し屋!」
「何だ」
「森側、
見られてる感じします!」
相沢とガンツが同時に立つ。
東柵へ向かう。
◇
【土曜日 09:08/東柵】
森。
静か。
だが。
いる。
気配。
視線。
見られている。
その時。
木の陰。
一瞬だけ。
赤。
「――っ」
相沢が目を細める。
消えた。
速い。
「見えたか」
ガンツが低く言う。
「ああ」
「何だった」
相沢は少し黙る。
そして。
「赤かった」
最悪だった。
◇
【土曜日 09:11/東柵】
その時。
視界の端。
⸻
【新規脅威反応】
【危険度:高】
【警告:
接近戦を推奨しません】
⸻
「珍しく具体的だな……」
「何だ」
「オカンが逃げろって言ってる」
「本当に意味分からん」
ガンツが本気で嫌そうな顔をする。
だが。
相沢の顔は笑っていなかった。
今までで一番。
嫌な表示だった。
◇
【土曜日 09:18/広場中央】
相沢はメモ帳を開く。
書く。
・赤個体確認
・接近危険
・監視継続
・東警戒強化
その時。
ミナが小声で聞く。
「……回し屋」
「何だ」
「勝てる?」
静かだった。
不安。
恐怖。
全部混ざっている。
相沢は少し止まる。
それから。
「回す」
「え?」
「勝つじゃなくて、
まず止まらない」
相沢は村を見る。
「崩れたら終わる」
ミナは少し黙る。
派手じゃない。
でも。
何故か。
その言葉は少し安心出来た。




