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第五十六話 回し屋の朝

【土曜日 07:36/広場中央】


 朝日が村を照らしていた。


 昨夜とは違う。


 少なくとも。


 皆、立っていた。


 完全には止まっていない。


 相沢はその光景を見ながら。


 小さく息を吐く。


     ◇


【土曜日 07:41/広場】


「回し屋!」


 ミナが走ってくる。


「東柵の縄、

 足りなくなりそう!」


「予備は」


「半分切った!」


 相沢は即座にメモ帳へ書く。


・固定材不足

・縄不足


 終わらない。


 本当に。


 現場だった。


「あと、

 保存袋も破れてる」


「後で見る」


「あと水運び――」


「一回待て」


 相沢が止める。


 ミナが止まる。


「優先順位」


「あ」


「全部同時に聞くと詰まる」


 ミナが少し悔しそうな顔をした。


「……ちょっと回し屋っぽくなったと思ったのに」


「今ので新人現場員まで戻った」


「うわ腹立つ」


     ◇


【土曜日 07:48/倉庫前】


 相沢は保存袋を確認していた。


 湿気。


 破れ。


 腐敗臭。


「これは分ける」


 リリアが頷く。


「食べられる物と、

 駄目な物ですね」


「あと優先消費」


「優先?」


「先に傷む奴から食う」


 リリアが少し驚く。


「……なるほど」


 今までは。


 ある物を食べていた。


 でも。


 管理する。


 順番を決める。


 それだけで持ちが変わる。


     ◇


【土曜日 07:56/東柵】


 ガンツが支柱を叩く。


「まだ持つな」


「今日中は多分」


 相沢は縄の張りを見る。


 かなりギリギリだった。


 その時。


 若い見張りが近づく。


「回し屋」


「何だ」


「俺達、

 次どうなるんですかね」


 不安そうだった。


 当然だった。


 ゴブリンは強くなっている。


 村は余裕が無い。


 長期戦。


 その言葉が重い。


 相沢は少し考える。


「……回す」


「え?」


「止まらないように」


 若い見張りは少し黙る。


 派手な答えじゃない。


 でも。


 妙に安心する声だった。


     ◇


【土曜日 08:03/広場中央】


 相沢はメモ帳を閉じる。


 その時。



【作業分散:改善傾向】


【単独負担:低下】



「……珍しく褒めるな」


 ミナが横を見る。


「また?」


「オカン評価」


「何その文化」


 相沢は少し笑う。


 だが。


 本当に少しだけ。


 楽になっていた。


 全部抱える状態からは。


 少し離れ始めている。


     ◇


【土曜日 08:11/東柵】


 その時だった。


 見張りが声を上げる。


「……誰かいる!」


 全員が森を見る。


 緊張が走る。


 だが。


 出てきたのは。


 一人だった。


 ボロボロの男。


 血。


 泥。


 片腕を押さえている。


 村人達がざわつく。


「人間……?」


 男は数歩進む。


 そして。


 倒れた。


 相沢は目を細める。


 嫌な予感がした。


 かなり。

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