第五十五話 止めるな
【土曜日 06:44/東柵】
ゴブリン達が消えた後も。
誰もすぐには動かなかった。
槍を握ったまま。
森を睨んでいる。
緊張が抜けない。
「……交代だ」
相沢が言う。
若い見張り達が少し止まる。
「でも」
「今のうちだ」
相沢は即答した。
「動いてない時に回せ」
ガンツも頷く。
「聞け。
今倒れる方が終わる」
ようやく。
数人が下がり始めた。
◇
【土曜日 06:51/広場中央】
朝日が村へ差し始めていた。
疲れた顔ばかりだった。
だが。
昨夜よりはマシだった。
完全崩壊は避けている。
それだけで違う。
相沢は広場中央へしゃがむ。
地面へ線を書く。
「今から優先順位決める」
村人達が集まる。
「防衛は維持」
線。
「倉庫修理」
線。
「あと、
休息固定」
ミナが嫌そうな顔をする。
「また面倒なやつ」
「面倒じゃないと死ぬ」
即答だった。
◇
【土曜日 06:58/広場】
相沢は地面へ簡単な表を書く。
【防衛】
【修理】
【休息】
【食事】
【水】
「これを回す」
村人達が見る。
まだ慣れていない。
だが。
前より理解が早い。
「食事も固定?」
リリアが聞く。
「食える時に食う」
相沢は携帯食の袋を軽く振る。
「腹減ると判断も落ちる」
ガンツが腕を組む。
「戦う方優先じゃねぇのか」
「長期戦なら逆」
相沢は即答する。
「維持出来ない方が負ける」
静かになる。
かなり現代的な考え方だった。
◇
【土曜日 07:06/倉庫前】
ミナが保存袋を運んでいた。
「これ濡れてないよ!」
「上へ移したからな」
相沢は倉庫床を見る。
まだ湿っている。
だが。
昨夜より水が減っていた。
排水が効いている。
「……本当に変わるんだね」
ミナが小さく言う。
「積み重ねだ」
「回し屋っぽい言い方」
相沢は少し笑う。
「現場は大体そう」
◇
【土曜日 07:14/東柵裏】
ガンツが柱を確認していた。
斜め支柱。
縄固定。
「これ、
思ったより持つな」
「荷重逃がしてるから」
「意味は分からん」
「雰囲気でいい」
ガンツが少し笑う。
だが。
すぐ真顔へ戻る。
「……また来るよな」
「ああ」
相沢も森を見る。
静かだった。
静か過ぎる。
片目ゴブリン。
あれは。
まだ諦めていない。
◇
【土曜日 07:22/広場中央】
相沢はメモ帳を見る。
・東柵補強
・排水拡張
・食料保全
・交代固定
・照明代替
終わらない。
むしろ増えている。
その時。
⸻
【負担集中を確認】
【推奨:
作業分担】
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「……分かってる」
相沢は小さく返す。
ミナが横から覗く。
「またオカン?」
「かなり口うるさい」
「でも、
ちょっと正しいの嫌だね」
相沢は少し止まる。
それから苦笑した。
「否定出来ねぇんだよな……」




