第五十三話 朝前
【土曜日 05:31/東柵】
木が倒れる音。
森奥。
重い音だった。
全員の空気が変わる。
「……何だ」
ガンツが立ち上がる。
相沢も森を見る。
嫌な予感しかしない。
◇
【土曜日 05:34/東柵外】
夜明け前。
森は薄暗い。
だが。
少しだけ見えた。
木。
運んでいる。
「……は?」
若い見張りが声を漏らす。
ゴブリン達だった。
数体で丸太を引いている。
「おいおい、待て待て」
ガンツが顔をしかめる。
「何で木運んでる」
相沢は目を細める。
頭が冷える。
嫌な方向へ。
かなり。
◇
【土曜日 05:36/東柵】
片目ゴブリンが後方にいる。
叫ぶ。
すると。
ゴブリン達が動く。
丸太。
前へ。
「……ぶつける気か」
相沢が呟く。
次の瞬間。
丸太が柵へ激突した。
鈍い音。
木が軋む。
「うおっ!?」
「柵押さえろ!」
村人達が慌てて支える。
以前と違う。
完全に。
攻め方を変えてきていた。
◇
【土曜日 05:39/東柵内側】
相沢は即座に周囲を見る。
柵。
支え。
地面。
負荷位置。
その時。
⸻
【東柵耐久:低下】
【同一点への負荷集中を確認】
⸻
「集中して叩いてる……」
最悪だった。
偶然じゃない。
考えている。
壊し方を。
「ガンツ!」
「おう!」
「人固めるな!
潰れる!」
「散れ!
横支え入れろ!!」
ガンツが怒鳴る。
村人達が慌てて動く。
だが。
混乱していた。
丸太。
衝突。
また軋む。
「っ……!」
若い見張りが後ずさる。
怖い。
当然だった。
◇
【土曜日 05:43/東柵】
相沢は周囲を見る。
考える。
止め方。
負荷分散。
衝撃緩和。
その時。
視線が倉庫側へ向く。
木材。
縄。
予備柱。
使える。
「ミナ!」
「何!」
「予備柱持って来い!
あと縄!」
「分かった!」
ミナが走る。
相沢は地面へ線を書く。
「ここ支える!
斜め!」
「斜め?」
「真っ直ぐだと折れる!」
ガンツが即座に理解した。
「支え柱か!」
「そう!」
現場だった。
完全に。
◇
【土曜日 05:48/東柵内側】
柱を立てる。
縄で固定。
斜め支持。
相沢も押さえる。
その時。
丸太が再び激突。
衝撃。
だが。
今度は少し耐えた。
「止まった!」
「まだ持つ!」
空気が変わる。
ゴブリン達も少し止まる。
片目ゴブリンがこちらを見る。
相沢も睨み返す。
「……現場ナメんなよ」
半分本気だった。
◇
【土曜日 05:54/東柵】
空が少し明るくなる。
夜明け。
だが。
誰も安心していない。
片目ゴブリンはまだいる。
下がらない。
見ている。
考えている。
その時。
視界の端。
⸻
【警告】
【敵対対象:
学習速度上昇】
⸻
「お前、
そこまで分かるのか……」
本当に。
オカンなのか軍師なのか、
分からなくなってきた。




