第五十二話 少しだけ休む
【土曜日 04:03/東柵内側】
火が揺れていた。
見張り達の声が遠い。
相沢は木箱へ背を預けたまま。
まだ起きていた。
その時。
⸻
【推奨休息時間:
最低一時間】
【現在の判断精度低下を確認】
⸻
「……細かいな」
本当にオカンだった。
◇
【土曜日 04:07/東柵】
「ガンツ」
「何だ」
「半刻したら、交代」
ガンツが眉をしかめる。
「は?」
「お前も寝ろ」
「今この状況でか?」
「だからだ」
相沢は森を見る。
「長期戦になる。
倒れた方が終わる」
ガンツが少し黙る。
「……お前、
さっきまで寝てなかっただろ」
「オカンがうるせぇ」
「だから意味が分からん」
若い見張り達が少し笑った。
空気が少しだけ軽くなる。
◇
【土曜日 04:14/東柵内側】
相沢はリュックを漁る。
取り出したのは携帯食だった。
「……何だそれ」
ガンツが眉をしかめる。
「保存食みたいなもん」
袋を開ける。
甘い匂いが少し広がる。
ミナが近づいた。
「甘っ」
「疲れてる時用」
相沢は一本をガンツへ投げる。
「食え」
「おい待て」
「長期戦なんだろ」
ガンツは嫌そうな顔で齧る。
数秒後。
「……うま」
「だろ」
ミナがじっと見る。
「それ、
私の分ある?」
「後でな」
「ケチ」
相沢は水も飲む。
食える時に食う。
寝られる時に寝る。
現場では基本だった。
◇
【土曜日 04:21/東柵内側】
ミナは少し止まってから。
木箱を寄せた。
「ほら」
「雑だな」
「贅沢言わない」
簡易的な寝場所だった。
その横で。
ガンツも壁へ座る。
「お前も寝る」
「分かってる」
かなり不満そうだった。
◇
【土曜日 04:28/東柵内側】
相沢は目を閉じる。
火の音。
風。
遠い見張りの声。
少しずつ意識が沈む。
その時。
⸻
【休息開始を確認】
【判断精度:回復予測】
⸻
「……確認しなくていい」
半分寝ながら返す。
本当に。
どこまで世話焼きなんだ。
◇
【土曜日 05:25/東柵内側】
相沢はゆっくり目を開けた。
空が少し明るい。
「……半刻か?」
「半刻だ」
ガンツが言う。
どうやら。
ガンツも途中で寝ていたらしい。
少し顔色が戻っている。
相沢は顔を押さえる。
頭が軽い。
かなり違った。
その時。
⸻
【休息効果:良好】
【判断精度:回復】
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「はいはい」
相沢は小さく返す。
ミナが呆れた顔をする。
「最近、
一人で会話してない?」
「オカンだから気にすんな」
「もっと意味分かんない」
◇
【土曜日 05:31/東柵】
朝が近づいていた。
だが。
森は静か過ぎる。
相沢は目を細める。
「……嫌だな」
「ああ」
ガンツも同じ顔だった。
ゴブリンが来ない。
それが逆に怖い。
考えている。
待っている。
そう感じる。
その時。
遠く。
森奥で。
木が倒れる音がした。




