第四十八話 夜襲前
【土曜日 02:07/東柵】
森が静かだった。
静か過ぎた。
だから嫌だった。
ガンツは槍を握る。
周囲の見張り達も落ち着かない顔をしていた。
「……来ると思うか」
若い見張りが小声で聞く。
ガンツは森を見る。
「分からん」
だが。
勘は悪かった。
あの咆哮。
あれは。
まだ終わっていない声だった。
◇
【土曜日 02:11/広場中央】
相沢はまだ起きていた。
本当は寝るべきだった。
頭も重い。
目も疲れている。
でも。
妙に嫌な感じが消えない。
メモ帳を見る。
・東防衛
・倉庫排水
・休憩固定
・食料整理
やる事が多い。
その時。
視界の端。
⸻
【睡眠不足:危険域接近】
【六時間以内の休息を推奨】
⸻
「だから無理だって……」
相沢は小さく呟く。
完全にオカンだった。
◇
【土曜日 02:16/広場】
ミナが眠そうな顔で来る。
「まだ起きてた」
「そっちこそ」
「見張り交代待ち」
そう言いながら座る。
火を見る。
少し沈黙。
「……何か、
戻ってきてから空気違う」
ミナが言った。
「そうか?」
「うん」
ミナは焚き火を見る。
「皆、
ちょっと安心してる」
相沢は少し黙る。
それは良くない。
「依存は困る」
「でも、
実際助かってるし」
「それじゃ駄目なんだよ」
相沢は火を見る。
「俺いなくなった時、
終わる」
ミナが少し止まる。
「……また消えるの?」
「分からん」
本音だった。
この世界のルールは。
まだ何も分からない。
◇
【土曜日 02:22/倉庫裏】
リリアが排水用の溝を見ていた。
浅い。
だが。
確かに水が流れている。
「……本当に流れています」
少し驚いた声。
今まで。
雨は耐えるものだった。
逃がす発想が薄い。
そこへ相沢が来る。
「どうですか」
「流れてます」
「なら一旦大丈夫」
リリアは少し迷ってから言った。
「アイザワ殿」
「何です」
「……あの灯り、
凄いですね」
「LED?」
「える……?」
「まあ、
便利な灯り」
リリアは少し考える。
「回し屋殿は、
変な物を普通に出しますね」
「失礼ですね」
「でも助かっています」
それは真面目な声だった。
◇
【土曜日 02:31/東柵】
その時だった。
森奥。
ガサッ、と音。
全員の空気が変わる。
「止まれ」
ガンツが低く言う。
松明が揺れる。
暗闇。
沈黙。
そして。
黄色い目。
一つ。
二つ。
三つ。
さらに増える。
「……来たぞ」
見張りの声が震える。
次の瞬間。
森から咆哮。
ゴブリン達が一斉に飛び出した。




