第四十七話 回し屋の道具
【土曜日 01:16/広場中央】
結局。
誰もすぐには寝なかった。
いや。
寝られなかった。
相沢が戻ってきた安心感。
見慣れない道具。
数日ぶりの余裕。
皆、妙に気が立っていた。
「……それ、もう一回見せろ」
ガンツがLEDライトを見る。
かなり警戒した顔だった。
相沢はスイッチを押す。
白い光。
「うおっ」
ガンツがまた少し下がる。
「慣れろ」
「無理だろ」
周囲の村人達もざわつく。
「火じゃない……」
「でも光ってる……」
「魔道具か?」
相沢は少し考える。
「まあ、近い」
説明しても無理だった。
◇
【土曜日 01:21/広場】
ミナが結束バンドを指差す。
「それ、
もう残り少ないじゃん」
「消耗品だからな」
「消耗品?」
「使ったら減る」
ミナが嫌そうな顔をする。
「それ絶対貴重なやつじゃん」
「だから無駄遣いすんな」
相沢は折れかけた木箱を固定する。
締める。
固定。
速い。
ガンツが少し感心した顔をした。
「便利なのは認める」
「だろ」
「でも意味分かんねぇ」
「そこは諦めろ」
村人達がざわつく。
相沢は少し周囲を見る。
反応が面白かった。
現代だと当たり前。
でも。
ここでは全部未知。
◇
【土曜日 01:28/倉庫前】
相沢はLEDライトで床を照らしていた。
「明る……」
リリアが小さく呟く。
夜なのに。
火無しで見える。
かなり異常だった。
相沢は床を確認する。
水の流れ。
木材の歪み。
崩れた場所。
全部見える。
「……やっぱ排水悪いな」
「はい?」
「水逃げてない」
相沢は倉庫端を指す。
「こっち掘るか」
「掘る?」
「流す場所を作る」
リリアは少し止まる。
それから。
「あ……」
理解した。
今まで。
濡れたら終わりだった。
でも。
逃がせばいい。
その発想自体が薄かった。
◇
【土曜日 01:36/広場中央】
相沢はメモ帳へ何か書いていた。
「何書いてるの?」
ミナが覗き込む。
「欲しい物」
「もう?」
「足りない」
相沢は淡々と書く。
・防水布
・ロープ
・保存容器
・薬
・工具
・灯り増設
ミナが顔をしかめる。
「読めないけど、いっぱい」
「全部いる」
「何でそんなすぐ出るの」
相沢は少し止まる。
「現場だから」
短かった。
でも。
妙に納得する声だった。
◇
【土曜日 01:42/東柵】
見張りが交代する。
以前より静かだった。
混乱が少ない。
相沢は少し見る。
皆、まだ不格好だ。
でも。
考え始めている。
その時。
若い見張りが小声で言った。
「……回し屋」
「何だ」
「戻ってきて、
ちょっと安心しました」
相沢は少し黙る。
それから。
「依存すんなよ」
「え?」
「俺がいなくても回せ」
若い見張りは困った顔をする。
「いやでも……」
「少し出来てた」
相沢は東柵を見る。
「だから続けろ」
若い見張りは少し驚いた顔をした。
◇
【土曜日 01:55/広場中央】
火が小さく揺れている。
相沢は壁へ背を預けていた。
眠い。
かなり。
現代でも働いて。
異世界でも動いて。
そろそろ危ない。
その時。
視界の端。
⸻
【睡眠不足:蓄積】
【判断力低下リスク:上昇】
⸻
「……はいはい」
本当に余計なお世話だった。
その時。
遠く。
森奥から。
低い咆哮が響いた。
ガンツが即座に顔を上げる。
相沢も目を細めた。
静かだった村の空気が。
再び張り詰める。




