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第四十四話 金曜日の終わり

【金曜日 22:14/大阪・ワンルームマンション】


 静かだった。


 冷蔵庫の低い音だけが部屋へ響く。


 相沢誠司は机へ突っ伏していた。


「……だる」


 本音だった。


 朝からD店。


 応援。


 レジ。


 クレーム。


 資料修正。


 終わったと思ったら追加電話。


 しかも。


 最近はずっと、


“見え過ぎる”。


 疲れている人。


 崩れそうな現場。


 止まりそうな流れ。


 全部。


 気づいてしまう。


 だから動く。


 そして疲れる。


 最悪だった。


     ◇


【金曜日 22:19/部屋】


 スマホが震える。


 会社チャット。



【七瀬】

『D店、今日はかなり助かりました』



 相沢は少しだけ顔をしかめる。


『別に大したことしてないです』


 返す。


 数秒後。



【七瀬】

『そういう所です』



「何だそれ……」


 意味が分からない。


 その時。


 視界の端。



【精神疲労:高】


【休息推奨】



「うるさい」


 即答だった。


 最近。


 本当に余計なお世話が増えた。


     ◇


【金曜日 22:31/浴室前】


 タオルを取りながら。


 相沢は少し止まる。


 異世界へ行けなくなって、

 もう数日。


 最初は、

 少し休めると思った。


 でも。


 今は妙に落ち着かない。


「……どうなってるかな」


 思わず漏れる。


 ゴブリン。


 倉庫。


 火。


 ガンツ。


 ミナ。


 リリア。


 頭へ浮かぶ。


 特に最近は。


 ゴブリン達の動きが変わっていた。


 嫌な感じがする。


 まるで。


 少しずつ学習しているみたいに。


 相沢は小さく息を吐く。


「……考え過ぎか」


     ◇


【金曜日 22:44/異世界・広場】


 夜。


 火が揺れていた。


 見張りは増えている。


 東西両方。


 皆、かなり疲れていた。


 だが。


 以前より動きは整理されている。


「交代だ」


「次、東側」


 声が飛ぶ。


 まだぎこちない。


 でも。


 止まってはいない。


     ◇


【金曜日 22:51/広場中央】


 ミナは焚き火の前へ座っていた。


 ぼんやり火を見る。


「寝ないのですか」


 リリアが来る。


「……ちょっと無理」


 頭が回り続けていた。


 火。


 倉庫。


 見張り。


 怪我人。


 明日どうする。


 保存食どうする。


 全部。


「回し屋みたいですね」


「やめて」


 即答だった。


 リリアが少し笑う。


 本当に少しだけ。


     ◇


【金曜日 23:02/東柵】


 ガンツは森を睨んでいた。


 静か過ぎる。


 嫌な静けさだった。


「ガンツ」


「何だ」


 若い見張りが小声で言う。


「今日、

 何とか持ちましたね」


「ああ」


「明日も何とかなりますかね」


 ガンツは少し黙る。


 森を見る。


 暗い。


 何も見えない。


 だから余計に嫌だった。


「……分からねぇ」


 本音だった。


 その時。


 森奥。


 一瞬だけ。


 黄色い目が光る。


 ガンツの顔が険しくなる。


 まだいる。


 あいつは。


 終わっていない。


     ◇


【金曜日 23:48/大阪・ワンルームマンション】


 相沢誠司は玄関前に立っていた。


 動きやすい服。


 スニーカー。


 小さめのリュック。


 中身は最低限。


 水。


 タオル。


 携帯食。


 カッターナイフ。


 LEDライト。


 結束バンド。


 メモ帳。


 スマホ用モバイルバッテリー。


 持ち込めるか。


 そもそも本当に転移するか。


 まだ半信半疑だった。


 リュックを持ち上げる。


 重さを確認。


「……持っていけるなら、

 かなり変わる」


 問題は。


 どこまで許されるかだった。


 重量か。


 サイズか。


 “身につけている物”限定か。


 まだ何も分からない。


 だから試す。


 相沢はそういう人間だった。


 視線が玄関横の工具箱へ向く。


 さすがに無理か。


 いや。


 案外いけるのか。


「……ルール確認必要だな」


 営業時代から変わらない。


 現場を回すには。


 まず制限を知る。


 その時。


 視界の端。



【転移可能時間:00:00:12】



 相沢は表示を見る。


 数日ぶりだった。


 妙に長く感じた。


「持ち込み量に限界あるなら、

 優先順位いるな……」


 半分独り言。


 半分仕事脳。


 そして。


 00:00。



【転移可能時間:到達】



 相沢は小さく息を吐く。


「……来い」


 半分確認。


 半分祈り。


 次の瞬間。


 白い光が部屋を埋めた。

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