第四十三話 回し屋のいない夜
【金曜日 17:42/広場】
雨は止んでいた。
空は暗い。
夕方だった。
村全体が、酷く疲れている。
怪我人。
崩れた倉庫。
泥だらけの広場。
皆、座り込むように休んでいた。
だが。
完全には止まれない。
「火、夜用に回せ!」
「見張り交代!」
声はまだ飛ぶ。
弱々しくても。
止まってはいない。
◇
【金曜日 17:49/東柵】
ガンツは槍を立てたまま座っていた。
全身が重い。
腕も痺れている。
「……生きてんな」
思わず漏れる。
若い村人が苦笑した。
「死ぬかと思いました」
「俺もだ」
短い笑い。
でも。
皆かなり限界だった。
その時。
「ガンツ」
ミナが来る。
顔が泥だらけだった。
「見張りどう?」
「今は静かだ」
ガンツは森を見る。
暗い。
何も見えない。
だから逆に嫌だった。
◇
【金曜日 18:03/治療場所】
リリアは最後の包帯を巻いていた。
「……これで終わりです」
怪我人が小さく頭を下げる。
リリアも座り込む。
指が震えていた。
疲労。
緊張。
全部来ている。
その時。
若い女が小声で言った。
「リリアさん」
「はい」
「今日、
何回も助かりました」
リリアは少し黙る。
それから小さく笑った。
「……私だけではありません」
本当にそうだった。
今日は。
皆が動いていた。
不格好でも。
止まらずに。
◇
【金曜日 18:17/広場中央】
村長は焚き火を見ていた。
火が揺れる。
静かだった。
昼の混乱が嘘みたいに。
その時。
ミナが座り込む。
「……終わった?」
「今日は、ですな」
「今日“は”かぁ……」
ミナが苦く笑う。
その横へ。
ガンツも来た。
槍を置く。
「倉庫かなりやられたぞ」
「分かってる」
「保存食も減った」
「分かってるって」
言葉が少し強くなる。
だが。
すぐ二人とも黙る。
疲れていた。
余裕がない。
その時。
村長が静かに言った。
「皆、よくやりました」
誰も返せない。
褒められる余裕すら無かった。
でも。
少しだけ救われる。
◇
【金曜日 18:26/広場】
火が揺れる。
村人達も静かだった。
その時。
若い村人の一人がぽつりと言う。
「……回し屋、
いつ戻るんだろうな」
空気が少し止まる。
皆、思っていた。
でも。
口にしなかった。
ミナが焚き火を見る。
「分かんない」
小さな声。
ガンツが低く言う。
「でも生きてるだろ」
「何で分かるの」
「死ぬ奴が、
あんな面倒臭ぇこと考え続けるかよ」
ミナが少し吹き出す。
リリアも小さく笑った。
本当に少しだけ。
その時。
村長が静かに呟く。
「……帰って来た時、
驚くでしょうな」
「何に?」
ミナが聞く。
村長は焚き火を見る。
「我らが、
少しは自分で考えるようになったことに」
沈黙。
それから。
ガンツが鼻を鳴らした。
「まだ全然足りねぇよ」
「ええ」
リリアも頷く。
今日で分かった。
回し屋がどれだけ異常だったか。
そして。
どれだけ支えられていたか。
でも同時に。
皆、自分でも少しずつ動けるようになっていた。
それは確かだった。
◇
【金曜日 18:41/森奥】
片目の大柄ゴブリンが立っていた。
村を見る。
火。
見張り。
人の動き。
まだ終わっていない。
片目が細くなる。
そして。
ゆっくり森奥へ消えていった。
まるで。
次を考えるように。




