第四十一話 それでも回す
【金曜日 13:04/東柵】
ミシッ!!
木柵が大きく歪む。
「支えろ!」
ガンツが怒鳴る。
村人達が必死で押さえる。
だが。
腕が震えていた。
疲労。
恐怖。
限界。
全部来ている。
その時。
村長が再び叫んだ。
「止まるな!!」
声が掠れている。
それでも。
「アイザワ殿がおらぬなら!!
今は我らが回すのですぞ!!」
広場の空気が揺れる。
ミナが顔を上げる。
リリアも。
ガンツも。
皆。
少しだけ。
止まりかけていた。
◇
【金曜日 13:07/広場】
ミナが深く息を吐く。
頭が痛い。
疲れている。
でも。
止まれない。
「……火台優先!」
声を上げる。
周囲が振り向く。
「北消えたら視界死ぬ!
怪我人側はリリア!」
「っ、分かりました!」
「倉庫は後!
今は防衛!」
全部正解じゃない。
でも。
決めるしかない。
その瞬間。
少しだけ。
広場の流れが戻る。
◇
【金曜日 13:11/治療場所】
「重傷が先です!」
リリアが声を張る。
「軽傷は壁側へ!」
村人達が動く。
迷いながら。
それでも動く。
リリア自身も苦しかった。
軽傷を後回しにする。
つまり。
苦しむ人を待たせる。
でも。
今はそうするしかない。
その時。
若い女が涙目で言う。
「でもこの人痛がって――」
「分かっています!」
思わず強くなる。
一瞬。
空気が止まる。
リリアは息を呑む。
だが。
すぐ言い直す。
「……すみません。
でも今は、動ける人を先に」
苦しかった。
これが。
回し屋がやっていたことか。
◇
【金曜日 13:16/東柵】
「来るぞ!」
再び衝突。
木柵が揺れる。
ガンツが槍を突き出す。
一匹。
二匹。
倒す。
だが。
終わらない。
その時。
横。
若い村人が叫ぶ。
「ガンツ!」
「何だ!」
「火、消えてます!」
東側火台。
煙だけになっていた。
暗い。
視界が悪い。
嫌な位置。
ガンツは舌打ちする。
だが。
その瞬間。
後ろからミナの声。
「火持ってきた!」
振り向く。
泥だらけのミナが、
火台を引きずってきていた。
「お前……」
「文句は後よ!」
火が入る。
視界が戻る。
村人達の空気が少し変わる。
まだ終わってない。
まだ回る。
◇
【金曜日 13:23/森外れ】
片目の大柄ゴブリンが村を見ていた。
片目だけ細い。
観察している。
試している。
だが。
少しだけ違和感があった。
崩れ切らない。
限界のはずなのに。
まだ動く。
まだ繋がる。
その時。
広場から声。
「水こっち!」
「怪我人運べ!」
「火維持しろ!」
怒鳴り声。
でも。
さっきより揃っている。
片目ゴブリンが低く唸る。
◇
【金曜日 13:31/広場中央】
村長が息を切らしていた。
もうかなり辛い。
それでも。
広場を見る。
完全ではない。
崩れている部分もある。
失った物も多い。
だが。
まだ終わっていない。
その時。
ガンツが低く言った。
「……何か、
少し分かった気がする」
「何がですかな」
ガンツは東柵を見る。
火。
見張り。
怪我人。
走る村人。
全部。
「回し屋、
全部一人でやってたんじゃねぇ」
村長が目を細める。
「……ほう」
「あいつ、
俺ら動かしてたんだな」
ミナが少しだけ笑う。
疲れ切った顔で。
「今更?」
ガンツは苦く笑った。
「うるせぇ」
その時。
森奥から。
再び低い咆哮が響いた。
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