第四十話 崩れる前
【金曜日 12:44/東柵】
「来るぞ!!」
ガンツが怒鳴る。
次の瞬間。
森からゴブリン達が飛び出した。
今までと違う。
数。
速度。
殺気。
一気だった。
「槍前!」
「押し返せ!」
木柵へ衝突。
鈍い音。
悲鳴。
槍が突き出される。
一匹倒れる。
だが。
後ろが止まらない。
「多いって!!」
若い村人の声が裏返る。
さらに。
横。
西側からも咆哮。
ガンツの顔色が変わる。
「同時かよ……!」
◇
【金曜日 12:48/広場】
「西も来た!」
「怪我人下げろ!」
「火消すな!」
広場が完全に乱れ始める。
走る。
叫ぶ。
ぶつかる。
余裕が消えていた。
ミナが叫ぶ。
「子供中央!」
「離れないで!」
だが。
子供達も泣き始めている。
空気で分かるのだ。
皆、限界へ近い。
◇
【金曜日 12:52/見張り台】
ガンツが槍を振るう。
喉を貫く。
蹴り飛ばす。
だが。
止まらない。
しかも。
今までと違う。
ゴブリン達が、
“抜こう”
としてくる。
正面じゃない。
横。
隙間。
薄い場所。
狙っている。
「クソッ!」
その瞬間。
西側。
村人の悲鳴。
「抜けた!!」
ガンツの背筋が冷える。
◇
【金曜日 12:55/西側広場入口】
ゴブリンが一匹、村内へ入り込む。
棍棒を振るう。
悲鳴。
荷車が倒れる。
「止めろ!」
村人達が慌てる。
だが。
連携が崩れていた。
誰が前。
誰が避難。
誰が火。
全部曖昧になる。
その瞬間。
ミナは理解した。
崩れる時は。
一気だ。
◇
【金曜日 12:58/広場中央】
「ミナ!」
「北火台落ちる!」
「水が!」
「怪我人!」
声が重なる。
多過ぎる。
頭へ入り切らない。
その時。
リリアが叫ぶ。
「まず怪我人を――」
「でも火が消えたら!」
「じゃあどっち優先なの!?」
誰も答えられない。
空気が止まりかける。
その瞬間。
遠くで木が折れる音。
ミシィッ!!
東柵だった。
「東抜かれるぞ!!」
ガンツの怒号。
空気が凍る。
◇
【金曜日 13:02/東柵】
木柵が歪んでいた。
押されている。
数で。
疲労で。
判断不足で。
全部まとめて。
若い村人が震えた声を出す。
「もう無理だ……」
誰も否定できない。
その時。
森奥。
片目の大柄ゴブリンが前へ出た。
ゆっくり。
確信したように。
村が崩れる瞬間を見に来たように。
ガンツが槍を握る。
だが。
体が重い。
疲労。
焦り。
責任。
全部乗っていた。
その時だった。
広場側。
村長の声。
「……一人の問題にするな!!」
空気が止まる。
村長は震えながら立っていた。
息も荒い。
それでも。
叫ぶ。
「アイザワ殿は!!
一人で全部抱えていたのですぞ!!」
皆が振り向く。
「だから止まっていた!!
だから回っていた!!」
村長は広場を見る。
怪我人。
火。
崩れた倉庫。
疲弊した村人。
全部。
「なのに今、
また一人へ押し付けようとしてどうする!!」
沈黙。
誰も動けない。
だが。
その言葉は重かった。
ミナが唇を噛む。
ガンツが目を閉じる。
リリアが静かに拳を握る。
その時。
東柵が、
大きく軋んだ。




