第三十九話 止まり始める
【金曜日 12:07/東柵】
疲労が限界へ近づいていた。
槍を持つ腕が重い。
足も遅い。
呼吸も荒い。
「交代すっぞ!」
「次のやつ前!」
ガンツが怒鳴る。
だが。
交代へ入る村人の動きも鈍かった。
皆、削られている。
少しずつ。
確実に。
その時。
森からまた石。
「っ!」
木柵へ当たる。
さらに別方向。
ゴブリンが飛び出す。
「右!」
「止めろ!」
槍が突き出される。
だが。
一瞬遅い。
ゴブリンが柵を越えかける。
ガンツが無理やり叩き落とした。
「はぁ……っ」
息が重い。
こんなの。
いつまで持つ。
◇
【金曜日 12:16/広場】
空気が死に始めていた。
皆、喋る量が減っている。
疲れていた。
考え続けるのは、
体力を使う。
しかも。
終わりが見えない。
「水……」
怪我人の声。
リリアがすぐ動く。
だが。
一瞬遅れる。
自分でも分かった。
集中が落ち始めている。
その時。
「リリア!」
ミナが走ってくる。
「北火台、消えた!」
「……何人回せますか」
「二人だけ!」
二人。
少ない。
だが。
今はそれしか出せない。
リリアは広場を見る。
怪我人。
治療。
火。
防衛。
全部繋がっている。
なのに。
頭が回り切らない。
◇
【金曜日 12:24/広場中央】
村長は座り込んでいた。
呼吸が重い。
年齢的にも厳しかった。
「村長!」
「今度は……何ですかな」
「西柵、一部壊れて!」
村長は目を閉じる。
まただ。
一つ崩れる。
すると。
別が足りなくなる。
ずっとそれの繰り返し。
「人は」
「もう余ってません!」
答えが早かった。
つまり。
本当に無い。
◇
【金曜日 12:31/見張り台】
ガンツは森を睨む。
片目の大柄ゴブリン。
まだいる。
動かない。
だが。
分かってしまう。
あいつは待っている。
村が、
完全に疲れる瞬間を。
「ガンツ……」
若い見張りが低く言う。
「俺ら、
いつまで持ちます」
ガンツは答えない。
答えられない。
その時。
広場側から悲鳴。
振り向く。
子供が転んでいた。
水桶が散らばる。
泣き声。
怒鳴り声。
誰も余裕がない。
空気が荒れていく。
◇
【金曜日 12:38/広場】
「ちゃんと見てろ!」
「見てたよ!」
「なら何で落とす!」
村人同士の声が強くなる。
疲労だった。
余裕が消えると、
人は尖る。
「やめて!」
ミナが止める。
だが。
自分もかなり限界だった。
頭が痛い。
ずっと考え続けている。
何を優先する。
誰を回す。
何を捨てる。
しかも。
正解が分からない。
その時。
ミナは気づく。
今まで。
回し屋がいた時。
皆、
“次を考えなくて済んでいた”。
あの人が。
先に見て。
先に決めて。
先に動かしていたから。
「……っ」
胸が重くなる。
その時だった。
遠く。
森奥。
低い咆哮が響く。
ゴブリン達の動きが変わる。
空気が変わった。
ガンツの顔色が変わる。
「……来るぞ」




